第64話 雨下の決着
対峙する二人に僅かな沈黙が訪れる、最初に沈黙を破ったのはアリスターだった、息を呑むのも躊躇われるほどの緊張感に耐えられなかったのだろう、
「ガンナーが俺に勝てると本気で思っているのか」
シンディはそれを聞いて思わず吹き出しそうになるのを堪え、小さく息を吐きだして、
「試してみると良いわ、その言葉が強がりじゃあ無ければね」
アリスターはシンディの挑発に眉を少し動かして、じりじりと僅かながら間合いを詰めた。
そこはすでにシンディの間合いだと、アリスターが気付いた時には数歩後ろに下がっていた。
「あらあら、そんなに離れる事無いのに、どうしちゃったのかしら」
シンディの鋭い剣先を恐れずに踏み込まなければ、アリスターの持つナイフでは致命傷を与える事は出来ない、だが、その肝心な半歩を踏み込むことが出来なかった。
埋める事の出来ない間合いの差をどうするのか、その為の策はすでにアリスターの手の中に有る。
シンディはそんな事は気にも留めず、すたすたと散歩でもするかのように不用意に近付いて来た。
アリスターは身体の後ろに回していた右手を勢いよく前に突き出した、その手に握られていたであろうナイフは右手には握られておらず、シンディはアリスターのその動きに一瞬だけ動きを止めてしまった、その一瞬をアリスターは待っていた。身体ごと右手を突き出したために今度は左手が死角に回る、アリスターは突き出した右手を引くと同時に左手を突き出した、その手には何も握られていない様に見える、少なくともシンディにはそう見えた。
とても必殺の一撃には見えない、だがその手には見えにくい様に黒く塗られている投げ矢が、巧みに左手の陰に隠されて握られていた。
とても避けれるような間合いではない、アリスターはそう思っていた、自分に出来ない事は相手も出来ない、勝手にそう思い込んでいた。
シンディの身体のどこでも良いから当たれば良い、不格好に投げた矢が致命傷になるなんて思ってもいない、投げ矢が致命傷になるには全身を使って投げた矢が急所に当たらなければ不可能である、しかしどこかに刺されば半歩を踏み込むぐらいの時間は稼げるだろう、そう、身体のどこかに当たりさえすれば。
アリスターは勝手にそう思い込み、身体の後ろに右手を回すと隠していたナイフを手に取った、再び握られたナイフで止めを刺そうと半歩踏み込んだところで不吉な音が聞こえた。
シンディの目には何も映っていなかった筈だったが、左手の奥で不意に弾かれる雨粒に違和感を感じ取ったシンディは、咄嗟に投げ矢の可能性に気付いた、そう思った時にはシンディはすでに投げ矢を弾いていた、そして返す刀で突きだされる右手を払うと、折れ曲がる右手の激痛に苦悶の表情でしゃがみこむアリスターを見下ろしていた。
「さて、もう勝負はついたんだし、なんでこんな事をしたのか教えて貰えるかしら」
暫くの間は痛みに耐えながら沈黙していたアリスターだったが、次第に痛みが薄れたためにゆっくりと口を開いた。




