第63話 雨下の決闘
シリルが階下に降りていくのを見届けると、アリスターはすぐに踵を返して走って来た廊下を戻り、扉が壊れているシリルの部屋へ侵入した。
以前侵入した時に持ち込まれている家具が無い事を確認していたため、探し物を見つけるのにはそれほど手間はかからなかった。
箪笥や机の引き出しを開け、目的である淡く光っているビンを持っていた鞄に詰め、足早に部屋を後にした。
その間も部屋から出るな、と声を掛けていたためアリスターが何をしていたのかを見ていた者は居なかった。計画の成功を確信していたアリスターは再び階段まで戻ると、階下から聞こえてくるシリルの声にほくそ笑み、階段を登り男子禁制の女子寮へと足を踏み入れた。
女子寮の見回りを担当しているシンディとシェリーは二人交代で見回りをしていたが、それぞれの負担が大きいためにそれほど頻繁に見回る事が出来ない事も下調べがついていて、つい先ほど見回りを終えて船に戻っていった事を確認済みだった。
そのためにアリスターが声掛けをしているという事は、女子寮のみんなに緊急事態だとすぐに理解された為、部屋から顔を覗かせるような不届き物は一人も居らず、満足気に頷くとアリスターはゆっくりと屋上への階段を登った。
屋上への扉を開けて吹き込んでくる豪雨に目を凝らしながら外へ出ると、そこには居るはずの無い人影を見つけ、たじろぎながらも人影に声を掛けた、
「そんなところに居ると危ないから、寮へ戻りなさい」
大声で叫ぶように呼び掛けたが声が届いたかはわからない、それほどの豪雨の中で立ち尽くしている相手の目的は何なんだろうか。
再びアリスターが声を掛けると人影はゆっくりと近付いて来た、その相手が居るはずの無いシンディだと気が付いた時には目の前まで迫っていた。
「どうしたんですかシンディ先生、こんなところで立っているなんて」
目の前のシンディは、アリスターの声は聞こえている筈だが微動だにしない。
「シンディ先生は怪しい人は見ませんでしたか、侵入者が居るみたいなのですが」
再びの問いかけにシンディは首を振る、それを見てアリスターはその場を離れようと踵を返したが、咄嗟にシンディに左手首を掴まれた。
何か言おうと思ったアリスターだったが、明らかに様子の可笑しいシンディにすべてを悟ったのか、掴まれている左手を引き寄せると、反対の手に握られていたナイフをシンディの腹に突き立てた。
「いつから気付いていた」
アリスターの問いにシンディは表情も変えずに答える、
「ここに来る前から・・・ね、ちょっと調べたら色々と出て来たわ」
「そうか、気を付けていたんだがな」
「仕方ないわよ、敵が多いんだから」
「・・・可笑しいな、致命傷の筈なんだが」
アリスターは突き立てたナイフを回してみる、ぐにぐにと肉がよじれる感触が伝わって来るが、肝心のシンディは表情一つ変えない。
「はぁあ、仮にも船に乗った事が有るのに肉の感触もわからないなんて」
すっと離れたシンディからは血の一滴も流れておらず、代わりにアリスターのナイフには生肉の塊がぶら下がっていた。
「そんなだから付け込まれるのよ、情けない」
シンディの止めの一撃でアリスターの中の何かが壊れてしまったようだ、ぶるぶると震え出したアリスターはナイフを振るうと肉塊を飛ばし、左手を前にナイフを握っている右手を身体の後ろに回した。
それを見てシンディは腰の小剣を抜くとアリスターとは対照的に、剣を握っている右手を前に突き出した。




