第60話 傷痕
シンディとシェリーと話しをしていたら艦橋に差し込む光が赤みを帯びて来た、思っていたよりも長時間話していた事に気付き、グラスに残っていたオレンジジュースを大急ぎで飲み干すと、挨拶もそこそこに船の外へ出ようとすると、急いでいた事とまだ荷物が片付いていなかった為にそこら中に身体をぶつけてしまった。
寮へ戻り階段を登るとそれなりの人数が踊り場に立っていて、僕を見つけるなり一斉に注目された、その中にはジャッキー先輩も居て、周りの目を制しながら僕に近寄って来た、どこか少し不機嫌そうだ、
「シリル、あの二人とは子供の頃からの知り合いだと聞いたんだけど、二人と船の中で何をしていたんだ」
「シンディと・・・、シンディ先生とシェリー先生の事ですか」
僕の返答にジャッキーは頷いた、筆頭とまで言われる人がそんな事を気にするのかと残念な気持ちになったが、昼食の時に何度も話したことを繰り返し話した、
「僕の家が宿屋をやっていて、船の修理の手伝いの間、お店を手伝って貰っていました。船の中では授業でわからないところが有ったので教えて貰っていただけですよ」
「レモン味だったか」
ジャッキーの後ろの方から誰かの声が聞こえた、なんで僕がジュースを飲んでいたのかを知っているのかはわからなかったけれど、
「オレンジ味でしたよ、急いでいたからゆっくり味わえなかったけど」
僕の返答にみんながざわざわとし始める、ジュースの一杯くらいでそんなに文句を言われる程では無いと思うのだけれど。
その中でジャッキーだけは少し機嫌が良くなったようで笑顔になりながら、
「俺が顔見知りだから聞いてくれと頼まれただけで、俺が聞きたかったわけじゃあ無いからな。勉強の話しと言っているが、首筋にそんな痕を付けてりゃあ何をしてたかなんてすぐにバレるから、服を着てても見える所は止めておけよ。あ、あと俺はオレンジ味なんてしなかったんだが本当かシリル」
ああよかった、ジャッキーが機嫌を取り戻してくれて、首筋の痕は荷物にぶつけたから付いたのだけれど何がバレるのだろうか、それに、服を着てても見えるとか見えないとか、ジャッキーはいったい何を言っているんだろう、それにオレンジ味はオレンジ味だと思うのだけれど。
「今度からは見えないところでやった方が良いな、ここから丸見えだから」
ジャッキーが指差した窓の真ん前には艦橋から手を振る二人が丸見えになっていた、寮を背に座ったのが間違いだった、反対に座っていたら僕たちを見ているジャッキーたちに気付く事が出来たのに。
「いろんな勉強も良いけど、俺たちは狩竜人に成るためにここに来てるんだから。余計な勉強はほどほどにな」
そう言うとジャッキーは上級生たちを引き連れて自分たちの部屋へ戻って行った、あれだけざわざわとしていたのに、一声でみんなを動かせるなんて改めて凄い先輩だと思った。
人がいっぱいで通れなかった踊り場をようやく通る事が出来て、部屋へ戻る途中で僕を気にしてくれていたのか王子君が迎えに来てくれていた、
「大丈夫だったかシリル、ジャッキー先輩もいたからそれほど心配はしてなかったが」
「ありがとう王子君、特に問題は無かったよ」
「そうか、それは良かっ・・・、首筋にそんな痕付けてても平気だったのは流石ジャッキー先輩だな」
「王子君もこれを気にするんだね、船の中は荷物がまだ一杯だったからぶつけちゃったんだけど、そんなに変な傷かな」
「・・・それはどこからどう見てもキスマークだぞ」




