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第59話 不穏な空気

二人が乗ってきた船は完成してから日が短く、今だ乾ききっていない塗料の匂いと、微かな甘い匂いが立ち込めていた。歴史のあるアル船長の船は様々な匂いが混ざり合っていたが、ピリッとした最前線を思わせる緊張した空気と鉄と油の匂いだったがので、その違いに少し戸惑ってしまった。

僕の戸惑いを察知したのか、シンディとシェリーは顔を見合わせた後で、

「なかなか体験できないんだから、たっぷり深呼吸しておきなさい」

お言葉に甘えて漂う甘い香りを胸に吸い込む、

「そうそう、私も初めてなんだから、新造船の香り」

・・・僕はそれとは違う香りに頭がくらくらしてきた。


「それで、話しって何かしら」

艦橋には十分な広さのソファとテーブルが置かれ、屋根がガラスになっており中からも外がらも良く見える様になっていて、どこか無骨なアル船長の船とはまた違う雰囲気で、真新しいソファに座るとすぐにオレンジジュースが出て来た。僕はそれを一口飲んだ後で、

「この前レイが来た時に、オードリーにキスをされて凄く大変な目にあったんです」

「あら、どうやら我慢できなくなったのね」

「いや、我慢と言う程では無いんだけど」

「ふふふ、良いのよこっちの話しだから」

そう言って二人は顔を見合わせていた、僕には何の事だかわからなかったので話しを続けた、

「ですから、レイにからかわれるのはもう諦めてるけど、その、美人の女性にからかわれると、その・・・」

「我慢できなくなる?」

「あの、我慢とかでは無くて、僕は構わない・・・って言うのも変ですけど、周りが嫉妬してくるので、出来れば学校に居る間は波風の立たない様にして貰えたらと思って」

「その言い方だと、学校を卒業したらからかって欲しいみたいに聞こえるけど」

「違います、お世話になっている以上あまり苦情を言いたくないだけです、学校生活に支障が出ても困るので」

「あら、あのシリル君にしては随分真面目になったのね」

「そりゃあそうですよ、僕もいつまでも子供じゃないんですから」

「そうね、言いたい事はわかったわ、ちょっとやり過ぎたかもね」

「安心して、私たちはそう長い期間は居ないから」

「ありがとうございます、僕の話しはこれだけです」

そう言って僕は席を立とうとすると、二人に僕の手を掴まれた、

「私たちからも少し話しが有るのよね」

「私たちが来たのは、シリル君をからかいに来ただけじゃ無い事はわかっているわね」

力尽くでソファに座らされた後で二人は距離を縮めて来た、僕の鼓動は早くなり二人から感じる空気は今までののんびりしたものでは無くなり、何やら不穏な雰囲気が漂い始めた。

「シリル君の部屋が荒らされた件だけど、本当に何も無くなっていないのよね」

「はい、と言っても部屋に置いてあったのは貰い物の服ぐらいで、他の物は全部野外授業に持ち出していたので」

僕の言葉に二人は顔を見合わせて頷いて、すぐに僕の方へ向き直り、

「シリル君以外に侵入されたと言っていた子たちの中で、何か無くなった物は有ったのかしら」

「僕もきちんと問い質したのでは無くて又聞きになるんだけど、無くなったと騒いでいた人も部屋の中に落ちてたりとか言っていたから、これと言って無くなった物は無いっぽいです。結局、侵入されたって言ってた子も勘違いだったかもしれないって言っていたし」

「シリル君が侵入されたのは間違いないのかしら」

「それは間違いないです、そういう細かい変化に気付くのが狩竜人だとレイも言っていたから」

「・・・わかったわ、えーとお父さんから短剣を預かっているのよね」

「ええ、船に乗る時に渡されました」

「常に枕元に置いて寝なさい、夜中に部屋から出る事は無いと思うけど、もしその時が来たら持って出る事、わかったわね」

鬼気迫る表情の二人にくっつくほどに顔を近付けられて気圧されそうになったが、僕はゆっくりと頷いた。

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