第54話 その名は
野外生活が終わり、明日からはまた元の生活に戻れる安堵感と、連日の野外生活から来る緊張感と疲労感、荷物が軽くなった事による疲労軽減と様々な感情が絡まり、とても軽い足取りとは言えないまでも、学校を出た時と同じくらいの速度で学校までの道のりを進んでいる。
最終日まで罠を仕掛けているのか分からなかった為、念のために僕が先行して罠を探りながら進んだけれど、僕たちが通った獣道には罠は仕掛けられていなかった。
出発する時に違和感を覚えたアレックス達が、なぜ罠の探索をするのかと尋ねて来たため、上級生たちが僕たちを試すために罠を仕掛けていて、サーベルタイガーの為に設置したわけでは無い事を説明した。
当然嘘を吐いた事を問い詰められたが、あの場面で見かけた事も無い上級生が追跡していると言ったところで、冷静に僕たちの話しが聞けたかと逆に問い詰めると、アレックス達は顔を見合わせた後で頭を下げて来た。その後で、揉め事を起こさないための嘘だったと僕たちも謝罪をして、それでこの話は終わった。
当然追跡している上級生を見つけると評価が高いという話はしていない、したところで最終日だし、雨という天気が味方したから何とか達成した偉業を、何もない昼間に達成出来る訳が無いし、その事で少しでも進むのが遅くなるのを避けたかったというのも有った。
特にこれと言った事も無く順調に歩を進めて昼食を済まし、日が傾く前にみんなが待ち望んでいた学校へ辿り着いた。
学校への到着は僕たちが一番では無かったけれど、やはりあの荒天で増水した川が渡れ無かったり、体調を崩してしまった人が出て学校へ戻って来ていた班も有り、最終日まで野外に居たのは僕たちの2班と後は3班だけだった。
そんな中でも上級生を見つけたのは恐らく僕たちだけだろうと得意気にしていると、授業を終えたジャッキー・マクラウドが僕たちを見かけたらしく話しかけて来た。
「よう、シリルって言ったっけ、無事に戻って来たみたいだな」
「こんにちはジャッキーさん、何とか戻って来れました」
「先生にはシリルたちに見つかった事を報告したんだけど、どうやら成績が上がるってのはがせねたみたいだな」
「え、どういうことですか」
突然の事に僕は驚いてジャッキーに詳しく教えて欲しくて聞き返した、
「途轍もない成績でこの学校を卒業した生徒が居て、その生徒が野外授業の時にシリルと同じように上級生を見つけた様なんだ。当然そんな事は前代未聞だったから凄い凄いと言われたんだけど、その次の年に入学してきた生徒が夜中に歩き回って転んで怪我をしたり、迷子になったところを上級生に保護されたりで、その場合の評価はどうなるのかと問題になったらしくて、その凄い生徒が卒業してからは野外授業では評価をしないと先生たちの間で決まったらしいんだけど、俺もそれは全然知らなかったぐらいだから、生徒には完全に内緒なんだろうな。それでも成績が良くなるかもって噂は残っていたから夜中に徘徊する生徒はいたらしい、まあ俺もその一人だったんだけどな」
ジャッキーはそう言い終えると僕の肩をばしばしと叩き、
「俺も上級生は見つけたんだぜ、それで自慢じゃないが学年筆頭だ。そんな俺を見つけたんだからお前も頑張れよ」
「は、はい。出来るだけ努力します」
少し照れくさくなった僕は俯き加減で答えた、そんな僕の耳元に顔を近付けたジャッキーは、
「俺に、恥かかせるなよ」
そう呟いたジャッキーの声は低く冷たかった、今までとの余りの違いに僕が戸惑っていると、
「その途轍もない成績で卒業した生徒ってのは、オフィーリア・グッドゲームって言うんだ、お前も名前ぐらい知っているだろう」
「も、もちろん知っています、凄い人です」
僕の返答を聞いたジャッキーは笑顔で僕に親指を立て、くるりと踵を返すと手を振りながら寮へ戻って行った。




