第42話 死して残すもの
「怪我はしてないよね」
自分の身体の無事を確認し終えた後で、放心状態に陥っている王子君に僕は手を差し伸べた。
「あ、ああ、何とか無事みたいだ。シリルのお陰で命拾いしたよ、ありがとう」
王子君は僕の手を取りお礼を言ってきた、僕は王子君の手を引き立てて首を振る、
「僕のお陰なんて言わないでよ、王子君が手傷を負わせてくれてたから最後に隙が出来たんだ。僕だけじゃなくて二人で力を合わせたからだよ」
「そう言ってくれると俺も助かるよ、俺の剣技はまったく通用しなかったからな」
それは王子君の剣技が対人用に特化しているからであって、決して剣技の優劣には繋がらない、僕と王子君が模擬試合をしたなら、どちらが勝つのかはわからないだろう。
「僕たちは二人で、相手は一匹だった、本当にそれだけが勝因だよ。そうじゃ無ければ横から真っ二つに出来るような一撃は不可能だからね」
「まあ良いさ、俺もまだまだ未熟だってわかっただけでも収穫は有ったな。次、何かあったら今度は俺がシリルを守るから、それまでは借りておくよ」
「そうだね、それじゃあその時まで貸しておくよ」
固く握り合っていた手が血糊で張り付き、手を離そうとしても上手く離れず思わず二人に笑みが零れる。
「川まで行って血を洗おうか、出来れば服を着替えたいけど」
「ごめん、そこまで気を回せなくて」
「良いんだよ、血汚れを気にして命を落とすよりはな」
王子君の言葉に僕たちは再び笑いあった。
手を繋ぎながらだと歩きにくいため、僕が王子君の肩を抱き寄せながらジェイミー達に川へ行く事を告げると、大きなため息を吐いた後でジェイミーが、
「ついでにこの娘もお願いしますわ」
そう言って頭を叩かれたレイラは再び鼻を押さえている、
「あ、心配しな・・・」
「大丈夫、してないから」
川の水は多少は勢いを弱めていたので、濁りの少ない所を探して血を洗い流し、レイラも何とか顔を洗う事が出来た。王子君は血と臓物に塗れた服を洗うために脱ごうとするが、血糊で固まった服に手間取って上手く脱ぐ事が出来ない、
「シリル、ちょっと手伝ってくれないか、血が固まって脱げない」
「そうなんだよ、こうなっちゃうとなかなか脱ぎ辛いんだよね」
くねくねともがきながら服を脱ぐ王子君に助力をして、二人がかりで固まった服を脱がしていると、レイラがまた顔を洗い始めた、どこか洗い残しでもあったのだろうか。
「なあ、サーベルタイガーの死体は・・・どうする」
ふと思いついたように王子君が僕に尋ねてきた、
「・・・食べるの、多分美味しくは無いよ」
質問の真意がわからず突拍子も無い事を答えてしまった、呆れたような顔をして王子君は違うと否定した後で、
「毛皮だよ、毛皮。それに頭はそれなりに価値が有ると思う、記念に取って置いても良いし。肉と内臓以外は使い道が有るんだ」
「そうなんだ、でもどれくらいになるかわからないな、王子君は知ってるの」
それを聞いて王子君は僕の首を抱え込み、耳元でどれほどになるのかを教えてくれた。
僕はその金額に驚き、また顔を洗っているレイラにも驚いた。




