第40話 必殺の一撃
腰が抜けているのかアントニオはなかなか立ち上がる事が出来ない、それを知っているのかサーベルタイガーは一撃で仕留める事が出来る距離までじりじりと間合いを詰めて来る。
なんとか飛び掛かられる前にジェイミーがアントニオの傍まで駆け寄り、
「大丈夫、確保しましたわ」
抱き上げたのか肩を貸したのかは見えていないが、バタバタとしているのは気配で感じる事が出来た。
その僅かな気の緩みが伝わってしまったのか、サーベルタイガーが勢いよくアントニオがいた位置へと飛び掛かった。
「危ない」
そう叫び王子君が一瞬でサーベルタイガーの正面に立つと、前足の爪を両手を使って剣で受け止めた。
「危ない」
僕は王子君のミスに気付き素早くサーベルタイガーを剣で切り上げた、激しく甲高い激突音が響き、サーベルタイガーの必殺の一撃である後ろ脚の大爪を弾く事が出来た。
何事が起ったのかわからなかった王子君だったが、服の一部が切り裂かれていることに気付き、声には出さなかったが僕の方に一瞬だけ視線を送って来た。今はそれで十分だった、生き残る事が出来たらせいぜい僕が命の恩人だと言って笑ってやろう。これで僕はようやく王子君に貸しを作る事が出来た、今までの恩に報いるためにも、もっとたくさん借りを返していこう。
僕の剣に絶対の自信を持って放った攻撃が躱されてしまった事に戸惑っているのか、サーベルタイガーは次の行動までに少しの時間を有した。だけどそれは僕たちのほんの一呼吸くらいで、すぐに姿勢を低くして次の獲物を見定め始めた。
移ろう視線の先に映るのは生か死か、やはりその視線の先にはアントニオが居る様だ。
一体どんな格好をしているのか、ジェイミーが傍に居るからよほどの事が無ければ安心だろうけれど、それでも補って余りあるアントニオのお荷物っぷりなのか。
レイラも加勢して欲しいが、ジェイミーの護衛から離れてくれる事は無いだろう、王子君は生死の境を彷徨ったにも関わらず、いまだ僕の傍らで剣を構えてくれている。
僕たちを監視している上級生は、この状況を見ても助けには来てくれないようだ。
十分命の危険では有るが、これぐらいなら対処できると思っているのか、それとも僕たちにはすでに発見されているので誰も監視に来ていないのか。
何にしても誰かを頼りにしている様では駄目だ、今もこれからも、僕たちは自分たちの力だけで困難を乗り越えていかなければならない。
とりあえずはこのまま睨み合っていても意味が無い、僕は意を決して一歩前に出た。
それに呼応して王子君も前に出てくれた、そう、そうしてくれなければ僕が前に出た意味が無い。
阿吽の呼吸でサーベルタイガーとの間合いを詰めると、やはりというか必然というか、サーベルタイガーは僕の方では無く、必殺の一撃の存在を知らなかった王子君に集中し始めた。
知らない事は死ぬ事と同じ、すでに一回倒している王子君を舐めて掛かっているのか、サーベルタイガーは僕からは距離を取り、ゆっくりと僅かずつだけれど王子君を間合いに捉えようとしている。




