第38話 渡河不幸か仕方が無いか
「一体何の話しをしているんだい」
眠そうに目を擦りながら、アントニオがいつもの様に一番最後に起きて来た、
「ああ、昨日の話しだよ、上手く行ったって話し」
「おお、よくやったなシリル、これで俺も成績が上がるって事だよな」
アントニオの物言いに少し苛立ちを覚えた僕は、目覚まし代わりの一発をアントニオにお見舞いして溜飲を下げた。
すでに出発の準備が終わっている王子君たちとは対照的に、全くの手付かずのアントニオの撤収を手伝い、星を見る事が出来ない上に、川が増水していて渡河が出来ないため、次の目的地へは川を大きく迂回しなければ行けなくなった。
「本当なら川が減水するまではここで過ごすのが正解なんだけど、こういう場合も今日中に移動しなければならないのかな」
答えは誰も知る筈が無いが、ジェイミーだけはこういう場合にどうするのかを知っているかもしれないため、みんなに相談をする体でみんなの前で出発前に相談をした。
上級生と接触することが出来れば高得点という事を黙っていた事も有り、知っているのならば増水した川を渡河しなくても良くなる。
「渡河だけは無理にやらない方が良い、猛獣に出会うよりも危険度は上だと思う」
すぐに王子君が口を開いた、僕もほぼ同意見だったため僕は大きく頷いた。
かと言って上流、もしくは下流まで渡河が出来る場所を探して歩くのも推奨は出来ない、詳細な地図を持っていても浅瀬を判別することは難しい、行くか待つかなら確実に待つ方が上策である。
「天候で遅れが生じた場合でも、減点対象だと聞いたことが有ります」
やはりジェイミーは知っていたか、だけど、その情報は僕たちにとってはあまり歓迎できる内容では無かった。
せっかく雨の中を歩き回って高得点を得る事が出来たのに、即座に減点を喰らってしまうのかと気落ちしてしまったが、よくよく考えてみると、雨でも降っていなければジャッキー先輩に一泡吹かせる事なんて出来なかっただろうから、それを考慮するとそれはそれで仕方が無いのでは無いかと思う。
「仕方がないな、渡河は出来そうも無いから却下するとして、上流も下流も地形がわからない以上はどっちへ行くのが良いのかの判断が出来ない。それならばここでもう一泊して、安全に渡河をした方が良いと思う。原点になるのは残念だけど、命を無駄にはする事は出来ないから、みんなはどう思うか聞かせて欲しい」
「俺は・・・、せっかくの高得点を逃すのは惜しいけど、それよりも命の方が大事だな、成績で俺が死ぬことは無いけど、濁流に流されたら助かる自信は無いからな」
その通りだアントニオ、命よりも大事な物は無い、少なくとも成績よりも大事な事は間違いない。
「俺もアントニオの意見に賛成だな、濡れたままの荷物は乾かさないと重いし、ゆっくり休むのも悪くない気がしてきた」
上空には雲一つない青空が広がり、木々の間から微かに降り注ぐ朝日と、微かに舞う風はとても心地が良く、どうしても抜けない疲労感も相まって、その甘美な誘惑に抗えそうもない。
「わたくしは減点などすぐに挽回しますから構いませんわ、それに濁流に入るのは良い気持ちがしません」
「ジェイミー様の言う通りです、私たちはあの様な濁流に入る事は致しません」
みんなの意見が出揃った、僕も渡河はしない方向で賛成だ。減点は正直痛いけれど、命をかける事では無い、ジェイミーの様にすぐに挽回できるとは思えないけれど、そんな事は今ここで悩む事では無い、
「それじゃあ満場一致で減点を受け入れて、今日一日はここで寝て過ごす、それで良いかな」
「ああ、いいぜ。せっかく荷造りしたけど、またばらさないといけないな」
その荷造りをしたのは僕なんだけどね、僕は返事の代わりにアントニオに一発入れて、濡れた荷物を乾かすために急いで荷解きをし始めた。




