第3話 熊猫
満月熊が地に伏したところで僕はすかさず太く逞しいその首に剣を振り降ろした、さすがに僕の胴体ほども有る首の筋肉と、分厚い毛皮と、剣に絡みつく分厚い脂肪と、丸太の様に太い骨に阻まれたが、父の剣は一刀両断に成功した。返す刀で心臓付近に背中から二度三度と剣を差し込み、そこまでしてようやく満月熊の絶命を確認して一息つく事が出来た。
その場にへたり込んだ僕の全身からは興奮と恐怖から冷や汗と脂汗とがぐちゃぐちゃに溢れ出て、次の動作にかかるまでかなりの時間を要した。
速くなっていた呼吸も収まり、本来なら血抜きをしないといけなかったが、ぶら下げるための縄もひっかける木も無く、これだけの巨体を吊るす手間を考えたら、その場で腸を抜いてすぐに加熱処理した方が良いと呼吸を整えながら結論づけていた。
立ち上がるとすぐに火を熾して、肉を次から次へと加熱処理をして腹に詰め込んだ。皮は売り物になるが今は荷物になるだけだけれど、その毛皮から発する匂いはあまたの動物除けにもなるだろうし、雨風を凌いだりなどいろいろと役に立つため、荷物になる事を覚悟で鞣して持って行くことに決めた。
後は抜いた大量の腸を処理するための穴をどうしようか思案していると、がさがs草陰から唸り声が聞こえ、身構えていると飛び出して来たのは後ろ脚に剣の様な立派な鉤爪が有るサーベルタイガーだった。ただその体は全身に傷があり酷く痩せていて、かなり見すぼらしかった。
第一印象はまるまる太った満月熊に比べて美味しくはなさそうだな、熊類は食肉として人気だけれど、猫科はあまり美味しいと聞いたことが無いし、どうしたものかと考えているとどうやらサーベルタイガーのお目当ては抜いたばかりの満月熊の腸のようで、横目で僕を見て時折威嚇をしながら腸を喰らい始めた。
もともと埋めて処分するつもりだったものを食べてくれるのはこれ幸いと、そのまま腹いっぱいになるまで腸を堪能させていた。
「そうしたら僕を気に入ったみたいでさ、それからは僕のそばで寝る様になって、背中に乗せてくれたり、獲物をおびき寄せたりしてくれたおかげで食べるのには苦労しなくなったんだよ」
黙って僕の話しを聞いてくれていたアントニオだったが、さすがに信じてはくれていない様で、
「君よりも大きい熊を倒したってのは本当かい、とても信じることは出来ないよ」
「じゃあこれを見てよ、背中に穴が空いてるのは僕が止めを刺した穴だよ」
荷物の中から取り立てて強烈な獣臭を放つ毛皮を取り出すと、広げる前にアントニオが鼻を摘まみながらすぐに仕舞ってくれとお願いされた、まったく相変わらず失礼な奴だ。




