第25話 彼女の罠
いつの間にか、僕とジェイミーの周りにはクラスの生徒達が集まって来ていた。
それも当然の事だろう、突然の自主練にも飽きてきたころに、クラスの人気者の上位と最下位が決闘を始めたのだから。
僕がジェイミーに勝てるかどうかはわからない、纏っている気配が尋常では無いのだ、いつものジェイミーのふんわりとした雰囲気に騙されていた、僕もクラスのみんなも。
ジェイミーの間合いが掴めずにじりじりと後ろへ下がると、同じだけジェイミーも前へ出てくる、一瞬たりとも目を離すことは出来ない。周りの生徒は拳を突き上げて今すぐに斬り合えと声を上げて煽って来ているようだが、今の僕にはその声は届かない、そんな物は草木がそよ風に揺られているのと大差は無い。
こうし二人が呼吸を合わせていくと不思議な気持ちになって行く、僕の心がジェイミーの中へ流れ込み、ジェイミーが僕の中へ入って来る。
僕たちは恋人同士なんじゃないかと錯覚を起こす程長く見つめ合っていた、実際はそれほど長い時間では無いが、その密度が時間をゆっくりと感じさせていく。
そんな二人の時間も終わりが近付いてきていた、ジェイミーが半歩深く踏み込んで来た、僕はその機会を逃さずに大きく前へ踏み込む。その瞬間、ジェイミーの口が少し緩んだのが見えた、助かった僕はまた彼女の罠に嵌るところだった。
力一杯振り下ろすはずだった模造剣を頭の上で手放す事に成功し、小さく悲鳴を上げて丸まった彼女の肩を掴む事が出来た。無残にも手放した模造剣は僕の頭を直撃し、そこそこ大きいこぶを作ったが、クラス全員を敵に回す事と比べれば安い物だった。
対峙している時よりも鋭い視線になったジェイミーが小さく舌打ちをして、いつものふわりとした顔に戻った後で、
「あー怖かった、ひどいなシリル君わ」
そう言ってくるりと回りながら、ジェイミーは僕の手の中から滑り出て行った。
僕は出来たばかりのたんこぶを摩り、その痛みに耐えながら周りを見渡した、決闘に託けてジェイミーの肩を抱いた不埒な男を見る周囲の視線は多少心苦しかったが。
悲鳴を上げる可憐な少女を、力一杯模造剣で殴りつける最低最悪の極悪非道の屑男にならないで良かった。そんな事をしてしまったら、これからの学校生活がどうなるかなんて想像もしたく無い。
「シリル、お前なんて事してるんだよ」
何もわかっていないアントニオが、ジェイミーへの点数稼ぎのためか間に割って入って来て僕の頭を叩いた、正確には出来たばかりのこぶを叩きやがった。
お返しにアントニオの頭には、僕のよりも大きいこぶを作ってやった。




