第16話 レイ、来訪
何とか鼻血が止まり、急いで教室へ戻る途中でなんで僕が鼻血を出していたのかを、アントニオに説明しても信じては貰えなかった。でもそれは仕方の無い事だろう、あの細い指先で弾かれただけだったのだけれど、その衝撃は生半可な物では無かった、比べるのならアトモスで剣術の練習中に、盾でぶん殴られたような衝撃だったからだ。
「どうせまたシリルが、ジェイミーさんを怒らせるような事をしたんだろう」
アントニオの問いに僕は咄嗟に応える事が出来なかった、ジェイミーに見つめられたとは言え、あんな場所でジェイミーを受け入れようとしていたなんて事は、ジェイミーに憧れているアントニオには答えづらいと感じたからだ。
「それよりも急にトイレに行きたくなるなんて、せっかく向こうから話しかけて来てくれたのに、もったいない事をしたね」
「それなんだけど、ジェイミーさんと目が有ったら、本当に急に今すぐトイレに行かないとまずいって思ったんだよ、なんでだろうな」
「流石にそこまではわからないね、目が合って緊張したんじゃないかな」
「そうかもな、次は目が合う前にトイレに言って置こう」
そんな事が出来るのならあの悲惨な出来事は起こらなかったな、と思ったけれど何も言わないで置いた。
その日の授業が終わるころ、轟音と共に見慣れた狩竜人船が校庭に降り立つのが見えた。
「アル船長の船だ、なんでこんなところに」
アトモスには何度も寄港していたが、船長はアルでは無くオードリーが変わりに船長を務めていた、アル船長は竜を狩る時にしか船長をせず、雷鳥などの比較的軽い狩猟の時はオードリーに全部任ているようだ。今回も恐らくオードリーが船長だろう。
僕は急いで校庭に出ると、オードリーと校長が何やら話しをしていた、そのため声を掛けれずにいると突然後ろから頭をはたかれた。
「シリルー、心配したぞ」
振り返るとレイが立っていた、かなり僕も強くなったつもりで居たけれど、まったく気配を感じさせずに僕が後ろに回り込まれるなんて、相変わらずレイと僕の実力差を感じてしまう。
「船が沈んだって聞いてからすぐに捜索に出たんだけど、お前は船が沈んだ場所から随分流されてたみたいだな。お前の作った墓を見つけた時には、お前はすでに森の中だったから探すに探せなくてな。無事にここに辿り着いたって聞いたから、時間を作って顔を見に来たって訳さ」
「そうなんだ、心配かけちゃったね。僕もまさか船が沈むなんて思っても居なかったから。だけどレイに色々と教えて貰っていたお陰で、何とかここまで来れたんだ」
「そうだろう、そうだろう、俺の教えは役に立っただろう」
レイは自慢げに胸を張った、横目で僕をちらりちらりと見てくるのが少し癪に障ったが、命の恩人には逆らわなかった。
そんなやり取りをしていると、レイ見たさに人が集まり始め、とても再会を喜び合う状況では無くなってしまった。