第15話 女王蜂のひとさし指
アントニオが席を外している間に、僕はジェイミーにあの事を尋ねる事にした。
「僕に非が有る事は重々承知しているのだけれど、僕の何がジェイミーを傷つけたのかがわからないんだ。僕に腹を立てているのなら謝るけれど、その、あんな事までされて、どうしたら良いのかわからなくて」
「あんな事とは、どのような事でしょうか」
思春期真っ盛りの僕がこんなかわいい子に、なんでキスしたのかと問い質すことなど出来るわけが無い。そう高を括っているのか、ジェイミーは表情を変える事無く僕に質問をし返して来た。
「あの、頬に、その・・・」
恥ずかしがりながらも僕は言葉を絞り出して、何とかジェイミーに伝えようとする、こうなる事をわかってやっているからか、ジェイミーは口元を手で隠しながらくすくすと笑いだした。
「シリル君は、なぜ私が頬にキスをしたのかを、お聞きになりたいのですね」
「そ、そう。なんでなのかなって」
僕が相槌を打つと、ジェイミーは僕の耳に口を近付けて来た。ああ、まただよ。言葉には出さなかったけれど、視線を移した先の王子君の表情を見ると、なんて言いたかったのかは伝わっている様だった。
ジェイミーはそんな僕の表情を見れたのかはわからないけれど、レイラには見られてしまったかもしれない。
「どうやらあなたには、大した罰にはならなかったようですね。わたくしは負けるのは嫌いですけど、強い人は好きですよ」
ジェイミーの囁きを聞き、僕は驚いて目を見開いてジェイミーの顔を見た、ジェイミーもこちらを見つめて来ていて二人の視線が交わる。暫く見つめ合っているとジェイミーはゆっくりと目を閉じ、それに釣られ僕もゆっくりと目を閉じると。
「隙あり」
ジェイミーに力いっぱい指で鼻を弾かれた、あまりの激痛にうめき声を上げて俯いていると、
「わたくしは、そんなに簡単じゃ無いですよ」
そう言っていつもの笑顔に戻ったジェイミーは、レイラの首根っこを掴むと自分たちの席へ戻って行った。それを見送った後で王子君の方を見ると、とても気の毒そうに僕を見ていた。僕は鼻を押さえながらそれに苦笑いで返事をすると、いつの間にか戻って来ていたアントニオが、
「な、なあ、急に席を外したりしてジェイミーさんは気を悪くしてなかったかな、なあ」
相変わらずなアントニオに、八つ当たりの拳骨をお見舞いをした。
「痛いな、なんでシリルはいつも・・・、お前、大丈夫か」
アントニオが何の事を言っているのかはわからなかったが、アントニオを殴りつけた拳が、真っ赤に染まっているのに気付いた。しまった強く殴り過ぎたかと思ったけれど、それじゃあアントニオが僕を心配する理屈に合わない。僕は恐る恐る殴りつけた拳を開くと手のひらが真っ赤になっており、それが僕の鼻血だという事は、顎を伝って止まらない鮮血が教えてくれた。
僕はすぐに鼻に指を突っ込み、保健室へ走った。が、保健室がどこに有るのかわからずにすぐに戻って来て、アントニオに付き添ってもらい保健室へ走った。鏡を見ると、少し鼻がズレた気がする。