第143話 いつもの奴ら
倒れる寸前まで肉を食べている僕を、王子君たちは遠巻きに眺めている。
ふらふらになりながら僕は最後の肉を口に入れると、最後の力を振り絞って、
「ごちぼうざまでじだ」
まだ肉が口の中に残っている為にはっきりと発声できなかったが、姫様には伝わったようで、僕の皿に置こうとしていた肉をいったんコンロに戻すと、
「そうか、残った肉は・・・」
そう呟いた姫様は座っている王子君たちに視線を移した、咄嗟に視線を逸らした王子君たちだったが、アントニオは視線を逸らす事が出来ず、にこりとして手招きをする姫に抗う事は不可能だと悟り、ゆっくり立ち上がると、
「ほら、行くぞ」
そっぽを向いている王子君にそう声を掛け、そのついでに隣に居たジャッキー先輩まで巻き添えにして、姫様から賜られる肉のご相伴に預かる事になった、今度は僕が王子君たちの食べっぷりを観察する側に回ったが、お腹が膨れた状態で、他人の食事を見ているのはとても苦痛だとわかった。
恐らく王子君たちは腹八文目くらいだったから、僕が腹がはち切れるほど食べているのを見ていて面白がっていたんだと思う、少なくとも今の僕は肉を食べている姿を見ているのも辛い。
「追加肉が向こうからやって来たな、誰が行くんだ」
そう姫様が言ったので、動かない身体を無理やり奮い立たせて岸辺を見たけれど何も居なかった、いや、正確には僕が見た時には居なかったけれど、それからすぐに姿を現した。
肉を焼きながらも視界に入ってすらいない生物の気配を感じ取っているなんて、僕には真似の出来ない芸当だと感心してしまった。
「俺が行ってきます」
一番最初に手を上げたのはアントニオだった、相手を確認する前に名乗りを上げるなんて、もうこれ以上肉を食べたくないのが丸わかりなのだけれど、それは無謀と言う物だろう。
「アントニオ、相手が何か解っているのか」
とてもじゃないけれど看過できずに僕は声を掛けた、何も考えていなかったのか不思議そうな顔をしているアントニオに、僕は群れを成して現れた追加肉の姿を確認させた。
「え、あれって、えええ」
その姿を見たアントニオは驚いて目を見張り僕の方を見て来た、その姿を見て僕は大きなため息を吐き、
「僕はまだ動けないから、一人で・・・出来るかな」
「手伝ってくれないのかよ」
「・・・僕がどれだけ肉を食べたか見てたよね、暫く動けなくても仕方ないよね」
遠巻きに僕が苦しんでいる所を楽しんでいた為に、僕に何も言い返せなくなったアントニオだったが、そんな騒動を聞きつけてジャッキー先輩が近付いて来てくれて、
「ああ、やっぱりあいつらか。いつもここで野営していると襲ってくるからな、そうだと思った」
「という事は、ジャッキー先輩は相手をした事が有るんですか」
アントニオがジャッキー先輩に必死に食い下がる、狩りの経験者が一緒に来てくれると言うのは、初対面の物にとってはとても心強い事だから理解は出来る、
「ああ、ここに来た事が有る奴らなら、絶対に相手しないといけない相手だからな」
そう言うとジャッキー先輩は視線を落としてきょろきょろと動き回る奴らを観察して、
「あいつが今のボスだな、あのボスが死んだら暫くは次のボスが決まるまでは襲ってこないから、三人であれを狩ったらお終いだ」
もしかしてここに居る三人なのかと、僕は少しヒヤッとしたけれど、
「おーい王子、お前も来いよ」
ジャッキー先輩はいまだに肉を食べ続けている王子君を呼び寄せ、アントニオと三人で立ち向かうので、僕は下に降りずに済んだようだ。
「それじゃあシリルはここで見ていてくれ、よっぽど大丈夫だと思うが、何が有るかわからないからな、危なくなったら助けに来いよ」
「あまり期待しないで下さいね、本当に苦しいんですから」
「そう言う事にしとくよ」
そしてジャッキー先輩は二人に目配せをすると雄叫びを上げてダイアウルフの群れの中へ飛び込んだ、残る二人もそれに続いて行った。