第14話 あの子は熊
ジェイミーからの突然のキスから数日、罰と言えるような事はほとんど無かった。
アントニオを含む男子からは冷たい視線を送られたりもしたが、後ろから襲われることも無ければ、寝込みを襲われることも無い。つまり何の問題も無いって事だ。
女子たちは、恋のライバルがあのジェイミーだとわかっている為なのか、初登校のあの日から今まで何度も告白する機会を逃しているに違いない、その点だけは罰を受けていると実感する。
僕とジェイミーはキスをした仲だが恋仲では無い、むしろ嫌われている可能性のが高いと、僕に恋をしている女子に伝えてあげたいと思う。卒業をするまでに一回くらいは、ね。
「王子だとばらせば告白してくる子も居るんじゃないか、ジェイミーみたいにさ」
何度説明しても理解してくれないアントニオに辟易してしまうが、そんな事を言うと王子君がモテモテになるって事だけど、今のところそんな気配は微塵も無いのだが。
「なんだシリルも王子だったのか、そうならそうと言ってくれれば良かったのに」
王子君が目を輝かせながら僕に詰め寄って来た、選りによって一番聞かれたくない相手に聞かれてしまった、まあアントニオと一緒に行動していれば、いつかは聞かれてしまう事だから仕方が無いが、
「違うんだ王子君、僕は宿屋の息子で、アントニオが何か勘違いしちゃっているんだ」
「なんだそうなのか、まあシリルが王子だろうとそうじゃ無かろうと、何も変わらないがな」
王子君、僕が本物のどこかの国の王子だったら、仲良くして置いたら国同士の付き合いに発展するかも知れないんだよ、何も変わらないって事は無いんじゃないかな。
何にしても王子君は、一回説明しただけで僕が王子じゃ無いと理解してくれたのだけれど、アントニオの聞き分けの悪さは一体なんでなんだろうか、からかっている風には見えないから、余計に訳がわからないよ。
「それとジェイミーの事だけど、本当になんでキスしてきたのかわからないんだよ」
「はいはい、もう何度も聞きました。何か理由でも無ければほぼ初対面のシリルに、あんなかわいい子がキスをするわけ無いだろう。それこそ、満月熊が味見をしたとかならわかるけどな」
「ああそれだ、多分ジェイミーは満月熊なんじゃないか。それかサーベルタイガーかも知れないぞ、森の中を一緒に旅した仲だから、キスの一つもしてくれるんじゃないかな」
「あらサーベルタイガーなんて素敵じゃないですか、私をそんな風に見てくれていたなんて嬉しいですわ」
ジェイミーに聞こえてしまったのか、にこにこ顔のジェイミーと、僕を睨みつけているレイラが会話に加わって来た、王子君は普段と変わらないが、アントニオはジェイミーと目が合うといきなり挙動不審になった、
「あ、ああごめんジェイミーさん、ちょっと席を外すね」
アントニオはジェイミーに頭を下げ、僕には手で合図を送って急いでその場を離れていった。向かった方向から推測すると手を洗いに行ったようだ、憧れのジェイミーが着た途端に催さなくても良いと思うが、出るものはしょうがないよね。
自分が来てからすぐに席を外したアントニオの事をどう思うだろうか、少し気になってジェイミーの顔を覗き込んだけれど眉一つ動かさずににこにことしていた。レイラはどうやら僕と王子君の距離が近い事に興味を移していて、何やらぶつぶつと独り言を言っている。