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第135話 船出

真新しい狩竜人船の船内はどこか”熱”の様な物を感じず、言い方が悪いが綺麗なだけだと感じた。

他の使い込まれた狩竜人船には、そこかしこに刻まれた傷の一つ一つに傷が付いた理由が有り、それらを見ていると急いで壁の狩竜人武器を掴んで付けたのだろうとか、獲物の角だか爪高で付けてしまった傷なのか、そこには竜と狩竜人の切っても切れない関係が有り、やったかやられたかの歴史を感じる事が出来た。

「やはり綺麗な船は気持ちが良いな」

先に船内に乗り込んでいた姫様が呟いた、・・・そうだよね、やっぱり綺麗な船は気持ちが良い。

壁一面に残った血を拭き取った後や、どうして挟まったのか想像もしたく無いひっかき傷の隙間に挟まったままになっている髪の毛、外からの力で歪んでしまい上手く閉まらない窓など、そんな恐怖を感じる事の無い綺麗な狩竜人船は凄く良い、僕もいつかはと思わせてくれる。

「確かに綺麗なんだが、使えば傷は付くし汚れるものだ、それらはすべて船の勲章、美術品の様に眺めるための物じゃ無いからな」

姫様は振り返ると僕たち全員に向けてそう言った、確かに新品の狩竜人船に傷を付けたら弁償と言われたら何も出来なくなってしまう、当然わざと傷を付けたりなんてしないけれど、そう言って貰えたのはとても気が休まる。

真っ直ぐの船内を進むと左側に階段が見えた、姫様は僕たちに目配せをするとその階段を登って行った、王子君たちには先に行って貰い、僕はヘレナを背負うとゆっくりと階段を登った。

階段を登るとやはりそこは艦橋だった、艦長席と舵、その隣には地図台、その前には沢山のレバーとスイッチに計器が並んでいる。

初めて艦橋へ入ったのか、アントニオと王子君は興奮を隠しきれずに目を輝かせてきょろきょろとしている、その気持ちは僕も解る。

「ようし、それじゃあ出発だ」

姫様は舵の前に立つとそう号令をかけた、僕たちはそれをきょとんとしながら見ていた。

一向に出発しない事に違和感を感じたのか、姫様は僕たちの方へ振り返ると、

「どうしたんだ、出発しないのか」

僕たちはどうして良いかわからずに目配せをしていると、

「目的地はどこでしょうか」

ジェイミーが姫様に尋ねた、ああそうかと気が付いたのか姫は地図台にジェイミーを立たせ、

「ここが最初の目的地だ、それじゃあ出発」

そう言うと姫様はまた舵の前に立つと腕を組んでそう言った。

流石にこのままじゃまずいと思った僕は恐る恐る姫様に進言をした、

「すいませんオフィーリア姫様、操舵手や操縦士の方はどうなっていますでしょうか」

「・・・居ないぞ」

「・・・そうですか、わかりました」

僕は姫の言葉ですべてを悟った、そしてアントニオの首根っこを摑まえると、

「右と左はわかるよね」

「当たり前だ、馬鹿にしてんのか」

「面舵が右、取り舵が左、この舵を言われた通りに回すだけで良いから、出来るよね」

僕の言葉に少し戸惑いを見せたアントニオだったが、地図台からの指示はジェイミーが出してくれるため、ちらちらと僕とジェイミーへ視線を移した後で、

「任せろ、それぐらいなら出来るさ」

僕は持ったままになっていたアントニオの首根っこを離すと次にレイラに声を掛けた、

「レイラさん、ジェイミーさんとアントニオの連携の手助けをしてあげて」

「わかりました」

レイラの力強い返事を聞いた僕はヘレナの手を取り、

「ヘレナさんは僕の隣で、僕の指示に従って」

顔を赤らめたヘレナの手を引っ張り操縦席に座ると、その隣にヘレナを座らせた。

「これが高度で、これが速度、操作は僕がやるからヘレナさんは計器を見てて」

「わ、わかりました」

火照った頬を撫でながらヘレナが返事をしてくれた、最後はジャッキー先輩だ。

「ジャッキー先輩」

「おうよ、俺は何をすれば良い」

「外でも見てて下さい」

「お、重大任務だな」

「はい、何かあればすぐにオフィーリア姫様と、どうするのか決めて下さい」

ジャッキー先輩は大きく頷きながら僕に親指を立ててくれた、僕もそれに返事をすると、

「では出発します、振動に気を付けてください」

「うむ、それでは出発、目的地はオルカ湖」

姫様の合図を聞き僕が魔力炉のスイッチを入れた、軽い振動と微かな作動音が聞こえ、暫くのちに地面から狩人船が浮かび上がった。

浮かび上がった瞬間にジャッキー先輩は少しふらついたが、姫様は微動だにしていなかったのを見た、座っている僕たちでさえわずかにふらついたのに。

「面舵いっぱい」

「面舵いっぱい」

ジェイミーの指示にレイラが答える、それを聞いてアントニオが舵を切った、

「アントニオ君、復唱をお願いね」

ジェイミーにそう言われたアントニオは謝りつつも少し嬉しそうだった。

「ヘレナさん、そこのスイッチを下に、そうそう、それで船首が閉じるから。普段は閉めたままで良いよ」

「わかったわ、このダイアルは何かしら勝手に動いてるんだけど」

「それは船の傾きの調整用だね、基本的に自動で良いけど、傾けたい時にはその隣のスイッチを下にすると自動が切れるから、そうしてからダイアルを回せば船が傾くよ」

「という事はこれが左右で、こっちが前後の傾きなのね」

「そう言う事、普段は触らなくて良いけど、いざって時は結構重要になって来るから」

一通り指差ししながら確認をしてからヘレナが笑顔で頷いてくれた、レイに船内を案内して貰っていた知識が無かったら、危うくこの場で解散になるところだった、やはり僕はレイには感謝してもしきれない程の恩を受けていると実感した。

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