第134話 お弁当、お弁当嬉しいな
集合場所に辿り着くと、昨日までは無かった狩竜人船が鎮座していた。
オフィーリア姫が乗って来た船と大きさは比べるべくも無いが、教室2つ分くらいの大きさで、ジャッキー先輩の説明では魔力炉も予備が積まれていて、安全性も飛行性能もかなり良い様だ。
しかも新造船らしくなかなかお目に掛かれないからよく見て置けと言われた、言われなくても船体の美しさに見惚れている真っ最中だった。
「凄く綺麗な船ですね・・・、それに船底の絞り込みも竜骨の曲線も凄く綺麗だし、そーーーーれーーーーに、船尾の形が凄く綺麗だ」
僕は美しい狩竜人船を前から横から、走って裏へ回って後ろから隅々まで見惚れた、
「シリル、凄く綺麗以外の言葉は無いのか」
ジャッキー先輩に僕のあまりの語彙力の無さをからかわれた、人の強さを熊の様にとか竜の様に形容する事も有るから、美しさを言葉にするのならばどうすれば良いかを考え、
「ジェ・・・オフィーリア姫・・・」
僕は言いかけて言葉に詰まった、ぼくの中で2つを比べた時に、どちらが美しいのか結論が出なかったのだ、
「ん、姫様が来たのか」
ジャッキー先輩は辺りをきょろきょろとした、その間に僕の中で結論が出た、
「オフィーリア姫の方が美しい」
「・・・それは褒めているのか」
ジャッキー先輩は呆れ顔で答えたが、その後ろでジェイミーは頷いているのが見えた、どうやら上手く伝わったようだ。
「シリル、そんな事よりも自分の荷物取って来いよ」
王子君の言葉に僕ははっとして、
「ごめん、そう言えば自分の荷物は後回しにしてたんだった」
僕はその場に居るみんなに目配せをして走って部屋へ戻った。
「着替えと剣と、あとこれはどうしようかな」
忘れ物の無いように僕はひとつひとつ口に出して荷物を確認していった、そしてレイの小瓶をどうするかを決めていなかったのだ。
「これが原因で扉も壊されちゃったし、学校まで壊しちゃったけど、これを置いていってまた部屋を荒らされてもなぁ」
ぶつぶつと独り言を呟きながらどうしようかと思案を巡らし、着替えの鞄の中へおもむろに突っ込んだ、
「悪天候の時に外に出さなきゃ良いんだし、やっぱり何と無くだけどお守りな気もしてるんだよね」
レイの小瓶を入れた後で父の短剣も鞄へ放り込み、僕は部屋を後にした。
待ち合わせ場所へ再び戻ると、僕が部屋へ戻ってる間に姫様がすでに待っていた、僕は姫様よりも遅く来てしまった事を謝罪すると、
「よいよい、皆に気を使わせぬようゆっくり来たのだが、私よりも大物が居たようだ」
そう言って姫は笑い出した、いつになく上機嫌な理由はわからないけれど、僕はとてもつられて笑う気にはなれなかった、すると姫に気を取られていて気付かなかったのだけど、父が姫につられて大笑いしているのに気が付いた、
「姫様、シリルを大物だなんてそれは言い過ぎです。道中ご迷惑をおかけすると思いますので、どうかよろしくお願いします」
父は笑うのを止めると姫に頭を下げた、姫もそんな父を見て小さく頷いている、
「ほらシリル、これを持って行け。みんなの分も有るからな」
父は姫から僕に視線を移し、大きな包みを渡して来た、
「これは・・・」
そう問いかける途中で僕の腹の虫が答えを出した、父が手渡して来たのはお昼のお弁当だったのだ、
「ありがとう、食べたかったんだ」
「そう言うと思って、両手が綺麗なうちに作っておいた。これからすぐに魔力炉の分解作業に入るからな」
僕は瞳が潤むのを隠すために父に背を向け、お弁当をみんなに配り始めた。そんな僕の背中に手を振り、姫に頭を下げて父は学校の地下へ入って行った。
「ようし、ではそろそろ出るとしようか。この私よりも美しい船に乗って」
姫の言葉に僕はビクッとしてゆっくりと振り返った、そこには満面の笑顔の姫が立っていた。そして再びみんなに視線を戻すと、誰一人僕と視線を合わせる者は居なかった。
僕は顔を赤らめて再び姫の方へ向き直り、
「ひ、姫の方が美しいと言ったのですけれど・・・」
僕はおずおずと答えた、我ながら姫を前にして良く言えたものだと感心してしまうが、姫はそんな事は気にも留めず、
「よいよい、ものの美醜の好みは人ぞれそれじゃ。私なぞ、この船の足元にも及ばぬわ」
どうしてそこまで姫様がこの船を溺愛しているのかはわからないけれど、僕をからかっている訳では無い様なので少しだけ安心したけれど。誰だ、姫様にこの事を言ったのわ。