第133話 減点
程なくして、レイラが出て来た部屋の扉が開き、ジェイミーが両手に荷物を抱えて部屋から出て来た。
そして、すぐに踊り場に立っている僕を見つけると、澄ました顔から一変して笑みを浮かべながら歩いて来た。
「あら、誰を迎えに来たのかしら」
ジェイミーは少しずつ身体をくねらせながら近付いて来た、いつもより少し上機嫌な気がするジェイミーにおはようと声を掛けて、
「ヘレナさんを迎えにね、ほら、階段はちょっと辛いみたいだから」
僕の言葉にジェイミーは目を瞑りながら頷いた、そして優しい顔を僕に近付けて、
「まあまあね、昨日はちょっと減点でしたけど」
「減点って何が、何の事」
「そっちの話しですわ、私は好敵手じゃ無くて味方なのに、勝手に敵対心を抱いてるみたいだから、ヘレナさんに優しくしてあげなさい」
何を言っているかはわからないけれど、上から目線のジェイミーの言葉に少しむっと来た僕は、
「わかってるよ、僕が怪我をさせてしまったんだし」
「そうだけど、そうじゃ無いのよ」
ジェイミーは不意に鋭い目つきになり、更に訳の分からない事を言い出した、僕にもわかるように説明して欲しかったけれど、ジェイミーに教えを乞う気分にはなれなかった。
それからジェイミーは腕を組んで黙り込んでしまった、特に僕に用事が有るわけでも無いのに、なぜジェイミーはここで僕の相手をしているのだろうか、
「お待たせしました、っとジェイミー様、こんなところでどうされました」
「どうもこうも無いわ、あなたが部屋のカギを持っているからここで待っていたんでしょう」
「それは失礼致しました、では残りの荷物も持ってまいりますので」
レイラが戻って来てジェイミーが僕の相手をしている理由がわかった、そしてレイラが残りの荷物をジェイミーの前に置くと、
「ジェイミー様少しお待ちを。ではシリル様、ヘレナ様をお呼びしてきますので」
そう言い残してレイラは廊下を走って行った、そして程なくして両手に荷物を抱えてヘレナを先導して戻って来た。
「おはよう」
「おはよう」
僕はヘレナと挨拶を交わし、レイラからヘレナの荷物を受け取ると両手が塞がってしまう事に気付いた。
「あ、これどうしよう」
「あ、シリル君この荷物は私が持つわ。そっちの小さいのをお願いしても良いかしら」
「良いよ、どうせなら毒が大きいのを持つよ」
「あ、こっちは良いです、大丈夫です」
「遠慮はしなくて良いよ、僕に持たせてよ」
「ダメです、これは、その」
頑なに荷物を渡さないヘレナと、あれだこれだと揉めていたら、ジェイミーが頭を抱えながら間に割って入って来て、
「あなたには持たせたく無い女の子の荷物も有るの、やっぱり今日も減点ね」
「いったい何の事を言っているの、持たせたく無い荷物って」
そこでふとレイラと目が合い、何やら身振り手振りで何かを伝えようとしていた、そこで僕はレイラが先に持って行ったジェイミーの荷物の中身を思い出して、
「ご、ごめん、やっぱり僕がこっちを持つよ」
「う、うん、お願い」
そうして僕はヘレナの腰に手を回し、ヘレナに肩を貸して軽く支えながら階段を降りた。
右手はまだ痛いけれど、ヘレナ一人を支えるくらいなら何の問題も無い、満月熊の一撃を耐えろと言われたら無理だけど、そう言う事は言わない方が良い事は学んだ。