第132話 出発の日
父に出された食事はとても豪勢な物で、雷鳥の肉は昨日全部食べてしまったので使用されてはいないが、それでも僕が見ても解るくらいの良い物が使われているのがわかった。
僕は食事を済ませていたので飲み物と軽食を出して貰った、当然と言えば当然なのだが普段の食堂では見た事の無いような物が出て来た。
本音を言えばどんな豪華な食事よりも父の手料理が食べたかったが、それをこの席で言うのは失礼に当たるから深く呑み込んでおいた、僕もこの学校で礼儀を教えて貰っていなかったらとんでもない事を発言していたかもしれない、そう思うと勉強は出来ていると胸を張って父に報告しても良いだろう。
「とても美味しい食事をご馳走していただき、ありがとうございました」
食事を終えた父が姫に食事のお礼をし始めた、僕も父に続き飲み物をお礼を言った、
「満足していただけたなら何より、急な修理の依頼に答えていただいたお礼にしてはささやかな物だ」
「とんでもございません、私も多少は料理の心得が有りますが、とても素晴らしい品々に感動しています」
「そうか料理長にそう伝えておこう、お主に褒められたのなら喜ぶだろう」
「ただ一つ言わせていただけるのなら、このシリルが初めて狩った雷鳥を食べたかったですね」
良い感じで終わりそうだったのに、この親父は何を言い出しているんだ、そんなわがままを言っても昨日全部食べちゃったからもう残って無いよ、
「それはお主の言う通りだな、親しい者の初狩りの獲物を食べたいと言う気持ちは痛い程わかる、私もわがままを言って食べさせて貰ったぐらいだからな」
「おわかりいただけますか」
そう言って父は僕の方へ視線を向けてきた、そうかそう言う考えも有ったのか、そうなると僕の初狩りはあの森の満月熊になるからどちみち父の口には入らなかったと思うけど。
そうして久しぶりの親子の団欒は終わった、明日には僕は狩竜人船に乗って狩りに出かけてしまうし。父は学校の魔力炉の修理にかかりっきりになるだろう。
月の光を頼りに色の違う扉を開け、使い慣れたベッドで眠りについた、簡単な狩りってどんな狩りだろうと夢の中で思いを馳せて。
次の日、逸る気持ちがそうさせたのかいつもより早く目が覚めた、顔を洗って歯を磨き出発の準備を済ませた所へ王子君が僕を起こしに来た、
「なんだシリル、今日は準備が早いな」
「当たり前だよ、気持ちは狩場に居る時くらい張り詰めてるよ」
「そうか、それじゃあ狩場でもいつも寝坊してきた奴を起こしに行くか」
「そうだね、だけどそれは王子君にお願いできるかな、僕はヘレナを迎えに行かないと」
いつもとは違う僕に驚きを隠せなかった王子君だったが、そう言う事なら任せておけと部屋を出たところでジャッキー先輩とばったり出会せた、
「おはよう、準備は出来てるみたいだな。それじゃあ一緒に行くか」
「すいませんジャッキー先輩、こいつは女を迎えに行くんですよ」
「なにぃ、初めての狩竜人船での狩りに女連れとは・・・・、お前もやるなぁ」
王子君の言葉を聞いて、ジャッキー先輩はにこにこと笑顔で僕の肩を肘でつついて来た、
「ジェイミーさんたちの事ですよ」
「ああ、そうか。そうだよな」
僕の言葉を聞いてジャッキー先輩は真顔になり、すたすたと先に歩いて行ってしまった。
「それじゃあ僕は上だから」
そう言って僕は階段を登り、王子君は階段を降りて行った。
三階の踊り場に着いたは良い物の、ここから先へ進むのはとても勇気が要る行為だ。
そうは言ってもジェイミーの部屋も、ヘレナの部屋も知らないので、結局はここで待っているしか方法は無いのだけれど。
「あら、シリル君じゃ無いですか」
最初に出会ったのはレイラだった、両手に沢山の荷物を抱えて部屋から一人で出て来た、
「おはようレイラさん、えーっと」
言葉に詰まった僕を見て察してくれたのか大きく頷いた後で、
「一旦、荷物を置いて来てからでもよろしいでしょうか」
「もちろん・・・だけど、手伝おうか大変だよね」
僕の言葉を聞いてレイラは大きく首を振り、
「私なんかにそう言う必要はありませんよ、こんなの下着ばっかりで軽いですから」
「そっそう、それは別の意味で手伝わない方が良さそうだね」
僕は少し恥ずかしくなって俯きながらそう答えた、その姿に何か感じる所が有ったのかレイラは背筋を伸ばし、
「すぐに戻ってきますから」
そう言い残して何段飛ばしかわからないくらいの勢いで階段を降りて行った。
そして僕はまた一人になった、レイラが出てきた部屋には恐らくジェイミーが居て、レイラは二人分の荷物を運んでいるのだろう。
しかし、両手で抱えないといけない程の量の下着が必要になるなんて、僕なんて洗い替えを含めて三枚づつしか持って行かないと言うのに。