第131話 父の日
オフィーリア姫とジェイミー、レイラと女性たちが明日の準備のために帰って行き、それに伴い部屋の前に来ていた生徒達も散り散りになった、ジャッキー先輩も女性陣に続いて部屋へ戻って行き、僕の部屋に残されたのはいつもの三人だった。
「さてと、俺も準備をしないとな」
「それはそうなんだけど、狩竜人船に大体の物は準備して有るだろう、無いのは自分の服ぐらいじゃないか」
「そこはどうなんだい、乗船経験者のシリル君としては」
アントニオが僕の事をからかっているのか、頼みこんでいるのか良くわからない顔をして僕に尋ねて来た、
「僕が乗船した事が有るのは貨物船だし、狩竜人船は船内を見せて貰った事は有るけど、それ以上の事はわからないんだよね。でも、貨物船と狩竜人船で、船内の様子が違うって事は無いと思うよ」
「そうなのか、お前でもその程度なら俺とそう変わらないな」
「そうだよ、僕はここまで船とサーベルタイガーを乗り継いで来たんだからね。旅客船で来たアントニオや王子君の方が乗船経験があるくらいだよ」
知識の乏しい者が三人集まったところで特別な事は無く、無駄に時間が過ぎただけで各々が適当に準備をしておく事でその場は別れた。
夜になっても明かりは灯らず、お湯も出ない事から魔力炉が動いていないととても不便だと言う事に気が付いた、知らず知らずのうちにその恩恵を受けていたためにそんな事は思いもしなかった。
寝るにはまだ早いが特段やる事も無く、ベッドで横になり明日からの事を漠然と考えているとドアをノックする音が聞こえた。
こんな時間の来客はジャッキー先輩か王子君かなとドアを開けると、
「おおシリル、久しぶりだな」
そう言うが早いか、僕を抱きしめたのは父だった。
「どうだ、元気にやってるか。んん、部屋は綺麗にしているな。見た事無い服だな、どうしたんだこれ。魔力炉を壊したのはお前たちだって、やんちゃは治って無いみたいだな。どうだ、腹減っていないか、父さんはまだ食事してないんだ。学校生活はどうだ、友達は出来たか、勉強は頑張っているか」
「ちょっと待って、とにかく一回離れてよ」
矢継ぎ早にしゃべり続ける父を引きはがすと、お互い呼吸を整えて、
「父さん、久しぶりだね元気だった」
「ああ俺は元気だぞ、シリルはどうだ」
「うん、元気だよ。友達もいるし、勉強は・・・頑張ってる」
「そうか、それなら良い」
「それでは食事の準備をさせよう、長旅お疲れだっただろうから、ゆっくりと食事を済ませてくつろぐと良い」
声のする方を見るとそこにはオフィーリア姫が立っていた、あろうことかこの親父様は姫様に道案内をさせて来たようだ、僕の部屋なんて扉の色が違うから一目瞭然だと言うのに、
「はい、ありがとうございます。シリル、お前も来るか」
「いや、あの、父がとんだ失礼をしてしまい、申し訳ありませんでした」
僕が深々と頭を下げると姫は高笑いをして、
「そんなに畏まらなくても良い、御父上には大変にお世話になっておるのだからな。せっかくだからお主も一緒に来い、食事の用意をさせよう」
「はい、ありがとうございます」
僕は再び頭をだ下げた、それを見て姫様はにこりとした後で踵を返し歩き出した、僕たちも姫のうしろに続いて歩き出した。
「父さんを見直しちゃったよ」
廊下を歩きながら父に話しかけた、僕に褒められた父は少し鼻が高い様で、
「そうだろう、父さんは凄いんだぞ。それもこれもアル船長のお陰なんだぞ、父さんが直した船が調子が良いと色々な人に話してくれたみたいで、それを聞きつけてオフィーリア姫が船の修理に来てくれたんだ」
「そうなんだ、アル船長の船を直せて良かったね」
「そうだな、すべてはあの日から始まったんだな」
「そうか、あの日か」
僕が何にも興味を持たなかったあの日、空に浮かぶ狩竜人船を見たあの日。それを見た僕は人生の一歩を踏み出した気がする。そして今は狩竜人の学校にまで辿り着いた、あの日から今日まで僕は走り続けて来た、そして明日からも僕は走り続ける。いつまで、それは今の僕にはわからない。