第129話 願ってもいない話し
「いや、あの、違います、違うんです」
レイラの頭を右手で押さえつける形で上体を起こしたジェイミーが、残った左手を素早く左右に振りながら言い訳を始めた、
「違う事は解ったから、レイラの上から退いてあげようよ」
実際は何が違うのかを、僕はいまいち理解できていなかったが、ジェイミーに潰されているレイラが可哀そうなので助け舟を出した。
謝罪の言葉と主にジェイミーは立ち上がり、鼻を押さえながら潰されていたレイラはさぞや不機嫌だろうと思っていたが、レイラは笑顔で立ち上がった後で僕たち三人を舐め回すように視線を動かし、
「顔を洗わせてね」
と言い残し、レイラは指の隙間から血を垂らしながらトイレ兼浴室へ消えて行った。
何をしていたのかをジェイミーに問い詰めようかと思ったけれど、その後ろに居る大きすぎる存在を無視することは出来ず、
「騒がしくてすいません、よろしければ中へお入りください」
廊下にオフィーリア姫を立たせて置くわけにもいかず、とりあえず部屋の中へ入って貰った。
昨日に続き二度目の来部屋に心底驚いているが、一体何の目的来たのだろうか。
部屋を見渡したオフィーリア姫の視線からアントニオを守り、とりあえず目を合わせない事には成功した、また、昨日の様な事が起こってしまっては大変だと、昨日の事で学ぶことが出来た。
「今日はどのようなご用件でしょうか」
本当ならジェイミーに何をしに来たか聞きたかったけれど、オフィーリア姫を待たせる訳にもいかないので順序としてオフィーリア姫から用件を尋ねた。
「あー、たまたま、そう、たまたま試運転をしなければいけない狩竜人船が有って、ちょうど2週間は慣らし運転をしたくて、偶然にこの子たちから話しが聞いて、予定がまだ決まって無いから早くしようと来たのだ」
どう見てもしどろもどろになっているオフィーリア姫だったが、本人にとっては上手くいったようで少し上機嫌になっていた、ジェイミーにも動揺が見て取れたのか目頭を押さえている。
「えーっと、つまりはどういう事なのジェイミーさん」
しどろもどろだったがオフィーリア姫が言いたい事は伝わったので、ジェイミーに質問をする事にした、これ以上オフィーリア姫の動揺する姿を見たくないと言うのも有るが、その方が話しが早いと判断したからだ、
「たまたまなのよ、休みの間に何をするか考えていたら、それを偶然オフィーリア姫に聞かれて、そうしたらちょうど良い話しが有るって教えて頂いて。あと何人か誘っても良いと言われたのでシリル君たちはどうかなと思って。ほら、他の生徒の顔はわからないけど・・・ね、シリル君たちの顔なら知ってるから」
「そう言う事だ、卒業をしたら船に乗るつもりなのだろう、竜を狩ったりしなくても船に乗る事は良い経験になる、簡単な狩りはするつもりだがな」
レイの言う簡単な狩りでとんでもない目に合っている為、オフィーリア姫の簡単な狩りもにわかには信じる事は出来ないが、少なくともオフィーリア姫が一緒に狩りをしてくれるのならば、ひどい事にはならないと思う、思いたい。
「王子君、アントニオ、二人はどうする」
念の為に二人にも確認を取った、アントニオはオフィーリア姫と居るととんでもない事になってしまうし、王子君は特段問題は無いと思うけれど、僕が勝手に決めて良い筈が無い。
「二人はどうするって、シリルはもう乗る気になってるって事だろ」
「乗るさ、乗るに決まってる、ここで乗らなきゃ何しにここに来てるんだよって話しさ」
聞くまでも無かった事だが、二人の返事は僕と同じだった。
そうなると後は今も狩りの計画を練っているジャッキー先輩と、おんぶをしてでも一緒に行くつもりだったヘレナに話しを通せば、後は父親に挨拶をしたらすぐに出発が出来る。
と、オフィーリア姫に話しをすると、すぐに部屋を飛び出して行き、
「ジャッキー・マクラウド、私はオフィーリア・グッドゲームだ。この声が聞こえていたすぐにシリル・エアハート部屋へ来い。すぐにだ」
窓ガラスが振動するほどの大声でそう宣言し、満足顔で部屋に戻って来た。
でもそれって、僕の部屋に今オフィーリア姫が居る事の証明にも成っちゃうんだけど、大丈夫かな。