第122話 感謝の気持ち
大きな音を立てる事無く、無茶苦茶になってしまった部屋の後片付けをするのはとても大変だった。
まずとにかく元凶だったアントニオに服を着せて、まあこれはアントニオに貰ったものだから貸したと言って良いのかわからないけれど、アントニオは洗って返してくれると約束してくれた。
次にレイラの鼻血を被ってしまった為に、僕も風呂に入らないといけなくなった。
最初の鼻血は回避することが出来たのだけれど、下着までアントニオに貸した事を知って追加の鼻血は避ける事が出来なかった。
従者の不始末は自分の責任だと、ジェイミーまで参加してきてもう滅茶苦茶になってしまっていたが、ひとつひとつ解決していき、ようやくすべてを片付ける事が出来た。
ばたばたと片付けをしている間、小便臭い部屋で微動だにせず待ち続けてくれたオフィーリア姫に頭を下げ、どのような用件で僕の部屋を訪問したのか尋ねると、
「部下の前では感謝の意を伝えるだけでも形式に拘らないといけなくてな、本当はこんな風にしたいのだよ」
そう言うとオフィーリア姫は僕の方へ右手を差し出した、そのての意味するところはすぐに分かったけれど、差し出されたその手を簡単に握る事が出来なかった、
「どうした、何も怖がらなくても良い。友達とする様に、自然にして欲しい」
柔らかい笑顔のオフィーリア姫に諭され、僕はゆっくりと差し出された右手を握った。
「ありがとう、こうして今ここに居られるのは君のお陰だ。心から感謝する」
「ありがとうございます、私の様なものにそのようなお言葉をかけていただいて・・・、それで、その」
「どうした、私の手は固くて女性の手とは思えないか」
「とんでもございません、とても暖かい素敵な手です。尊敬する人と同じ、凄く凄く頑張った手です」
「そうか、そう言って貰えると私も嬉しい」
「ただ」
僕はそこから先の言葉を伝えて良い物か悩んだ、ただこのまま聞かずに済ます事は出来ない、僕は意を決して口を開いた、
「大変失礼な事とは存じますが、どうしてもお聞きしたい事が有ります」
「ほう、それは何だ。私に応えられる事か」
オフィーリア姫の返事を受けて僕は大きく頷いた、
「私は大変喜ばしいのですが、一体何を感謝されているのかがわからないのです」
僕の言葉を聞いて言葉に詰まり、きょろきょろと顔を左右に振り明らかに動揺し始めたオフィーリア姫はその視線をジェイミーに送った。
その瞬間にジェイミーは目を逸らしたが、懇願するようなオフィーリア姫の視線にため息を吐いて。
「私がオフィーリア姫にお願いをしたの。雷鳥の攻撃を命をかけて助けてくれたお礼をどうしたら良いか悩んでいたら、シリル君の憧れのオフィーリア姫が、私の変わりにお礼をしてくれると言って下さって」
「そ、そうそう、そうなんだよ、ありがとう。君は命の恩人だ」
「いえ、咄嗟に身体が動いただけで、助かったのはあの剣のお陰です。あの剣が無ければ僕もジェイミーさんも死んでいたかもしれません」
「そうか、それでもその身を晒して攻撃を受けた事には変わりはない。その勇気ある行動に釣り合うかはわからないが、これを授けよう」
そう言うとオフィーリア姫は、懐から折りたたまれた紙を取り出した。
僕はその紙を受け取った、まだオフィーリア姫の体温の残る紙を広げるとそこには、
「こ、これは。こんな物を頂いても良いのですか」