第121話 アントニオ再び
王子君とアントニオにさんざんに説教をされ、かなり時間が経ってしまった。
二人とも僕が謝罪をすると宣言したために、ある程度の使命は果たせたと満足したようで、時間も遅くなったと席を立ったところで僕の部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「こんな時間に俺たち以外に訪問者か」
そこで僕は思いだした、今日の夜の約束が有った事を。
「あ、あー、まあ、昨日の今日だし別に良いかな」
そう呟いて、僕の頭の中で思考が渦巻きを始めた。
王子君は何とも思わないと思うけれど、ここにはジェイミーに恋しているアントニオが居る、夜中に僕の部屋をジェイミーが訪問して来るという事はどういう事なのか、僕はジェイミーに対して特別な感情を抱いてはいないけれど周りはどう思うかな、あれだけの美人と噂されるのは悪い気はしないし、向こうが僕の事を好きになるのは僕には止められないし、これからまだまだ学校生活は長いから楽しい事は沢山経験しておきたい。
そんな事を考えながら扉を開けると、そこには僕の想像していた人とは違う人が立っていた。
「夜分遅くに時間を作って貰ってすまないシリル殿、部屋を間違えたら大事になるだろうから間違えて無くて良かった。部屋の中が賑やかだけれどジェイミーは来ているのか」
「いや、あの、オフィーリア様がなぜ僕の部屋に」
「おや、その様子だとジェイミーはまだの様だな、他の来客が居るのか」
部屋の外にオフィーリア様を立たせて置くのはまずいが、部屋に招き入れて良い物なのだろうか。
戸惑っている僕の背中と、美しい響きの女性の声に違和感を感じた王子君とアントニオが近付いて来た。
「え、まじか、なんで」
「あ、あわわ、わわ」
食堂では目が合わなかった為に難を逃れたアントニオだったが、不意打ちを喰らって真正面からオフィーリア様に見据えられたアントニオは、我慢できずに失禁してしまった。
「お」
咄嗟に大声を出してしまいそうになったが、そんな事をしてしまっては他の部屋の生徒が異変を確かめに出てきてしまい、オフィーリア様の存在がばれてしまうので一言発しただけで残りを飲み込むことに成功した。
「すいません、すぐに片付けますので中でお待ちください」
そう言ってオフィーリア様を部屋に招き入れ、腰が抜けたアントニオを抱え上げて風呂に投げ込み、濡れた床を拭いた。
「あ、俺はどうしたら良い」
手持無沙汰の王子君が僕に尋ねて来た、アントニオを着替えさせたら連れて帰って欲しいのだけれど、それまでオフィーリア様と部屋で二人きりは気まずいだろうし、
「アントニオは僕に任せて、王子君は部屋に戻っててよ。今日はありがとう」
「そ、そうか、じゃあシリルに任せるよ、おやすみ」
そう言って部屋を出て行く王子君の顔は安堵に満ちていた、かく言う僕も気まずいのでオフィーリア様には部屋にひとりで居て貰って、僕はアントニオの着替えを手伝い始めた。
「あら、シリル君の姿が見えませんが」
ごたごたとしている内にジェイミーが僕の部屋を訪れたらしい、と言うのもノックの音を僕が聞き逃していたのか、ジェイミーは明かりの漏れる僕の部屋の扉を勝手に開けて中に入って来たようだ。
「ああ、シリル殿は今風呂に居る」
言葉足らずでは有るが、一から説明をするにはちょっと大変なので、悪意も何も無く答えるとしたらそうなるだろう。
しかし状況から判断するしか出来ないジェイミーからしたら、訪問者をもてなしもせずに呑気に風呂に入っているとしか理解が出来ない。
しかもその相手がオフィーリア様なのだ、怒りは怒髪天を突き僕が裸で湯舟に浸かっているかもしれない風呂の扉を勢い良く開けた。
しかし、そこに居たのは、僕に服を脱がされている裸のアントニオだった。
一瞬で頭の中がパンクしたジェイミーは、そこで思考が止まってしまった。
勢いの良かったジェイミーが止まってしまったのを見て、従者として付いて来ていたレイラがジェイミーの肩越しに僕たちを見た。
そこでレイラも一瞬で頭がパンクしてしまい、大量の鼻血と共にへたり込んでしまった。
これだけの事が有っても、一切動じなかったオフィーリア様には心底感服した。