第120話 説教
「なあシリル、あれはまじなのか」
ヘレナの事で考え事をしながら階段を降りていた僕を見つけて、王子君が声を掛けて来た。
「王子君ちょうど良かった、話しがしたかったんだ。で、まじってなんの事」
「いや、シリルがヘレナさんを背負って行った事なんだけど」
「見てたんだ、その事を聞きたかったんだけど、僕はあれだけ丁寧に運んだのにヘレナさんの機嫌が悪くなっちゃってさ。女の子ってわからないよね」
「って事は、あの持ち方はまじだったわけだ」
「当たり前だよ、商品に疵を付けない様に持つには、あの持ち方が一番だって船乗りの人に教えて貰ったんだ」
僕の言葉を聞いて神妙な面持ちになった王子君は目頭を押さえながら、
「・・・そうか、ちょっと部屋に行って良いか、俺も話しがしたくなった」
僕は当然それを了承し、王子君はアントニオも連れて来ると言うのでそれも了承して王子君と別れた。
部屋に戻った僕は、それなりに片付いている部屋を少しだけ見栄を良くして、二人が来るのを待った。
「それじゃあ、どうしてあんな持ち方をしたのか教えて貰おうか」
「さっきも答えたけど、商品を気付付けない持ち方だって教えて貰ったんだ、実際に豚の積み下ろしの時は、みんな同じ持ち方をしてたよ」
「それは豚の話しだろ、もっといい持ち方が有ったんじゃないか」
「それがさ、最初は両腕で抱えようと思ったんだけど、そうすると足元が見えなくて転んじゃったら危ないと思って、背負っても良いかと聞いたら了承してくれたから背負ったんだけど、あっ」
「お。流石のシリル君も気付いたか」
「カレーを沢山食べた後だったから、お腹が苦しかったんだ。それで、お腹を圧迫する持ち方をしたらそりゃあ怒るよね」
「おいー」
そう言うと同時に王子君が僕の頭を叩いた、その横でアントニオは頭を抱えている、
「なあアントニオ、俺がお前を背負うと言ったら何を想像する」
「うーんまあまず間違いなくおんぶだと思うけど・・・」
「だよなぁ」
「えー、あーそうかぁおんぶすれば良かったのかぁ、豚の積み下ろしの時にはおんぶなんてした事無かったから思いつきもしなかったよ」
「なあシリル、さっきから豚の積み下ろしの話しばかりするけど、その事は喋って無いよな」
「いや、これは大切な商品を運ぶときに、最上級に気を使った持ち方だよって説明したけど」
「そうか、それだけか」
「暴れる豚を海に落としちゃって大変だった事が有ったけど、ヘレナさんは大人しくしててくれたから運びやすかったって言ったんだけど笑ってくれなかったな」
「その話しのどこが面白いんだ」
「だってね、豚の積み下ろしって足を縛ってるんだよ、泳げなくて必死にもがいてるんだけど沈んで行っちゃうんだ。だからすぐに助けるためにみんなで海に飛び込んで抱え上げるんだけど、なかなか水中からはなかなか持ち上げられなくてさ、もう最後はみんなずぶ濡れで笑うしか無くなっちゃうわけ。あの時も笑ったなぁ」
「アントニオ、笑えるか」
「ごめん、俺には無理」
「だよなぁ」
「えー、それはその場に居なかったからだよ、居たら笑えると思うよ」
「ヘレナさんもその場に居なかったんじゃないか」
「それは、まあ、そうだね」
アントニオと王子君は顔を見合わせて深いため息を吐いた、僕は明日ヘレナさんに謝る事に決めた。
何に対してという事がまだわからないけれど、とにかく謝る事に決めた。