第119話 背負う物
大きくため息を吐いたヘレナが席を立つために右手を僕の前に差し出した、その意味が解らず戸惑っていると、
「手を取って立たせるのよ」
ジェイミーの耳打ちを聞いて差し出された右手の意味を理解した僕は、慌てて席を立つと差し出された右手を手に取り力を込めた。
そのままヘレナを支えながら食堂を出ると、王子君とアントニオが空気を読んでくれたのか、二人は僕に目配せをすうるとその場を離れてくれた。
脚を庇いながら歩くヘレナの歩幅にに合わせてゆっくりと歩き、階段まで辿り着くと新たな問題が発生した。
ヘレナを抱え上げると足元が見えず、階段を踏み外してしまうかもしれないからだ。
「足元が見えなくて階段を踏み外してしまったら申し訳ないから、恥ずかしいかも知れないけど背負っても良いかな」
僕の問いかけにヘレナは恥ずかしそうに小さく頷いた、
「それじゃあ背負うね」
僕はヘレナの右手を肩に乗せ、引っ張り降ろしながら右手でヘレナの右足を抱え上げた。
これなら怪我をした左膝に負担は掛からないし、僕の右手もそれほど負担が無い。
「よいっしょっと、脚は痛くないよね」
ヘレナは目をまん丸にして僕を見つめていたが、何かをぼそぼそと呟いている為に聞き耳を立てると、
「おんぶ、おんぶじゃないんだ。なにこれ、おんぶじゃないんだ」
まあ脚が痛いと言っていないのであれば、このまま運んでも大丈夫だろうと判断して階段を登り始めた、
「やっぱり重い荷物を持つ時は背負う方が楽だね、この持ち方は船の荷物の積み下ろしの時に教えて貰ったんだ。あの時の荷物は重かったなぁ、今よりももっともっと重かったよ」
ヘレナを抱えたくらいでは普段の階段の上り下りの速度に差異は無く、すぐに三階まで辿り着く事が出来た。
「よいしょっと、流石に部屋までは僕は行く事が出来ないから、後の事は友達に任せるよ。いやあそれにしてもじっとしていてくれるから運ぶのも全然大変じゃないね、豚を積み下ろしした時は足を縛っていても暴れてさ、もう本当に大変だったよ。よろけて海に落としちゃうと、足が縛られてるからあいつら泳げないんだ、すぐに飛び込んで引っ張り上げるのは本当苦労したんだ」
僕は笑い話のつもりで話したのだがヘレナの表情は冷たく、光の無い瞳が僕を見つめていた。
「じゃ、これで僕はお暇するね、また困った事が有ったら何でも言ってよ」
不穏な空気を感じ取った僕は、大急ぎでその場を離れる事にした。
何でいつもヘレナは急に機嫌が悪くなるのだろうか、考えても答えは見つからなかった。