第118話 1グラムでも軽く
「感動しました、本来ならあまり話したくない過去の失態をご披露してくださるなんて、今日のカレーの味は一生忘れません」
感極まったのかヘレナが立ち上がり謝辞を述べた、本当なら僕もそうしたい気分では有ったけれど、どうしても姫様を前にしてしまうと畏縮してしまい普段通りに行動をする事が出来ない、これがレイを相手にしているのだったらからかいの言葉の一つも出て来そうなのだけれど、流石にそんな言葉はカレーと一緒に飲み込んだ。
「そうか、当事者には面白くも無い話しだったようだが、そこまで喜んでくれるのなら話した甲斐があるな、本当に今日は楽しい時間を過ごす事が出来た。では私はこれで失礼をさせて貰う、また会える事を楽しみしているぞ」
席を立ったオフィーリア姫はヘレナに言葉をかけた後で僕とジェイミーに視線を移し、にこりと微笑んだ後で踵を返すとカレーの匂いに交じり微かな香水の香りを残して船へ戻って行った。
僕は席を立ち、食堂から出て行くオフィーリアを見送り、いつまでも鳶を見つめているヘレナの背中から視線をジェイミーに移した。
「席を立った時に、姫様が物言いたげに僕たちを見て微笑んでいたんだけど・・・」
「あら、そうでしたか、私は気付きませんでしたけど」
「って事は僕の気の所為なのかな、あまりじろじろとお顔を見つめるのは失礼かなと思ってたから、見間違えちゃったかもしれないね」
僕の言葉にジェイミーは口元を押さえて笑った、ころころとした笑い声に釣られて僕も笑いだしてしまった。
憧れの人を前にして僕は緊張していたのかもしれないな、お姫様が僕とジェイミーに微笑む理由が無いもんな。
僕とジェイミーが笑いあっていると突然左肩を掴まれ、勢いよくぐるりと身体を回転させられた。
突然の出来事に咄嗟に反撃をしなくて良かった、そうして来たのはヘレナだったからだ。
「シリル君」
少し頬を赤らめているヘレナが僕の名前を呼んだ、
「どうしたんだいヘレナさん」
「あ、歩くのはそれほど大変じゃないんだけど、階段。階段を上り下りする時に痛くて」
「ごめんね、昨日のきょうじゃあ治らないよね」
「そうじゃ無くて」
ヘレナの言葉に僕が黙ると、少しの間を置いてヘレナが口を開いた、
「謝って欲しいんじゃ無くて、その、階段を登るのを手伝って欲しいんだけど」
「あ、それもごめんね、昨日は偉そうに手伝うとか言ってた癖にね、良いよ良いよ僕で良ければ何時でも手伝うよって、これじゃあ昨日と言ってる事一緒だね」
僕の愛想笑いにヘレナも笑ってくれた、口だけの男にならない様に気を配らなければいけなかった事は素直に反省をしなければ。
「それで、どうしたら良いかな。肩を貸せば階段は登れる?」
「2,3段なら登れるけど三階までは・・・」
「じゃあ、昨日みたいに抱えてあげるよ、三階ぐらいまでなら大丈夫だから」
「うん、そうして・・・」
明らかに顔の色が赤くなったヘレナが俯き加減にそう答えた、脚の怪我の介助はそんなに恥ずかしい事じゃあ無いと思うのだけれど、
「そうだよね、わかった・・・気にしなくても良いよ、あの程度ならそんなに変わらないって」
明らかに目の色が変わったヘレナが僕を見て来る、そんな顔をされても大食いをしたのは自分じゃないか。