第116話 カレー戦争勃発
席に着いたは良いが、そこは普段の食堂とは打って変わっていた、テーブルにはクロースが敷かれ、花瓶には花が生けられ、いつも使っている椅子では無くひじ掛けの有る物に変えられていた。
そして、気付かない方が無理が有るのだが、白装束の者が一際豪華な椅子の傍らに控えている所を見ると、その椅子に座るお方が自ずと推察される。
「ジェイミーさん、僕なんかがこんな席に座って良いのですか」
席に着いてから言うのも変かも知れないけれど、主賓が席に着いてからでは手遅れになるので事前に確認をした、するとジェイミーはいつもの笑顔のまま僕の方を向き、
「同席をするように頼まれたのですが、まさかシリル君はお誘いをお断りになられるのですか」
「う、それなら、まあ、良いのかな」
ジェイミーは絶対に心の中で違う笑い方をしているだろう、姫様がなんで僕を食事の席に呼ぶんだよ、あの船の中の謁見の間でジェイミーとレイラが二人だけ残されたけど、その時に話しが出たのだろうか。
もちろん同席できる事はとても嬉しい事だけれど、それでなくても注目を集めている中で、同じテーブルで食事なんかしたらまた質問攻めに逢うじゃないか、それにあれだけ綺麗な人を前にして、しかも隣には学校中の憧れの的のジェイミーに、普段は目立たないようにしているだけで、麗しのジェイミーにも引けを取らないレイラに囲まれて、僕はいったいどれだけの功を立てたのだろうか、雷鳥を狩っただけでこんなに報いを受けるのなら、どれだけ困難だろうとも狩竜人に成りたい人が後を絶たないのも当然だろう。
僕たちよりも先に食堂へ入った人たちが、すでに食べ始めてる人も居る中に白装束の先導でオフィーリア姫が食堂へ入って来た。
ただ歩いて席に着くだけなのだが、さすがの存在感で勢いよくカレーを食べていた人も食事の手を止め、一挙手一投足に見入ってしまっている。
「待たせてしまったな、雑務が残っていたので時間に遅れてしまった。すまない」
姫様はさっと頭を下げると、お供が引いた椅子に腰かけた。
僕は声を掛けて良い物かきょろきょろとすると、すまし顔のジェイミーが何も言わなそうだったので黙っている事にした。
すると瞬く間に皿が並べられ、姫様が合図をするとジェイミーもカレーを食べ始めたため、僕も見様見真似でカレーを口に運んだ、
「シリル様、食事の作法などお気になさらずにこのように豪快に一気に食べるのが、カレーには似合っています」
なぜオフィーリア姫様は僕を呼ぶときに様を付けるのだろう、とても不思議だけれどとてもじゃないが問い質す事は出来ない。
それよりも、掻き込むように皿のカレーを食べ終えたオフィーリア姫様の前に新しくカレーが運ばれて来た。
隣のジェイミーもすでに一皿目を食べ終えていて、レイラもそれに続いていた。
無言の圧力に囲まれて、僕も負けてはいられないとカレーを掻き込みお代わりをした。
そんな事をしていると、僕の後ろからオフィーリア姫様に話しかける声が聞こえて来た、
「オフィーリア姫様、素晴らしい食べっぷりに感服いたしました。剣の腕は遠く及びませんが、これなら微かに勝機が有りそうです、よろしければこの勝負受けていただけませんか」
そう言って山盛りのカレーと共に現れたのはヘレナだった、脚の包帯が痛々しいが何とか歩くことくらいは出来そうで安心した。
そんな無礼を働けば白装束の者たちが黙ってはいないと身構えたが、特に何の反応もせず、姫様も大笑いをして、
「そうか、お前もこっちが得意か。良いだろう今日はとても機嫌が良い、剣の腕を見せても良かったが、それはまたの機会にして・・・名は何と言う」
「ヘレナ・ウィリアムズと言います、では失礼します」
そう言ってレイラをどかすと僕の横に座って来た、脚を痛そうにしていたので僕が手を貸すと、ヘレナは笑顔になり、
「負けないから」
そう言ったヘレナの目線は、僕から少しずれてジェイミーに向いていた。