第114話 戻らない日常
「いやあ負けちまった、すまんなジャッキー、せっかくお前が勝たせてくれたのによ」
試合を終えたマロー先輩とヴィクター先輩が僕たちを見つけて声を掛けて来た、正直あの項垂れようから声を掛け辛かったので、マロー先輩がにこやかに話しかけて来てくれて助かった、
「お疲れ、まあお前よりも強い夜の決勝戦が有ったからな、怪我をしたく無かったんだよ」
ジャッキー先輩はそう言ってマロー先輩と固く握手をしていた、この学校で3年間磨き合った好敵手同士は短い言葉で十分伝わるものが有ったようだ、
「シリル、お前も付き合う先輩を考えろよ、決勝に出れなくなってたなんて知らなかったぞ」
「はい、もう遅いですけどこれからは考えます」
「シリル、多分その言葉は取り消した方が良いぞ、俺ほど良い先輩は居ないと感激することになるからな」
そう言ってジャッキー先輩は僕の首に手を回してじゃれて来た、正直ここで決勝戦を戦うのと、昨日の雷鳥と戦えたことを天秤にかけると、圧倒的に雷鳥と戦えた事の方が僕をわくわくさせたことは間違いない。
その点ではジャッキー先輩に感謝をしているが、どうにもレイと重なる部分が有るのが気にかかるところでは有る。
そんな僕たちの横を決勝を勝ったヴィクターが会釈をしただけで通り過ぎようとした、確かにマロー先輩に勝った時もあんまり嬉しそうでは無かったが、何も言わずに通り過ぎる事は無いだろう、
「ちょっとまってくれよヴィクター、おめでとうぐらい言わせてくれよ」
ジャッキー先輩の言葉に立ち止まったヴィクター先輩はこちらに振り返り、
「なんで昨日は誘ってくれなかったんですか、あんなに楽しそうに狩りをしてて」
楽しそう、ヴィクター先輩の目にはあれが楽しそうに映ったのか、僕たちは死に物狂いで戦っていたけれど、戦い抜いて生き残る事が出来た今となっては、楽しいという言葉は出て来ないが高揚感の様な物は確かに有る、有るからにはそれを一言で言うと楽しそうだと言われれば否めない所では有る。
「まあこっちにもいろいろと事情が有ってな、次は誘うから。その時は手伝ってくれよな」
「そうですか、それならば仕方ないですね。次の時は絶対ですよ、約束ですからね」
そう言ってヴィクター先輩は退船していった、ジャッキー先輩の言葉に引っかかるところが有った僕はすぐにジャッキー先輩に尋ねた、
「もしかすると、その次の時も僕は誘われちゃうんですかね」
「そりゃあそうだろう、まあ次はもうちょっと簡単なのにしようとは思っているから安心しろ」
「卒業記念の狩りは一回だけじゃないんですか」
「・・・誰がそんな事を決めたんだ、祝日だろうが祭日だろうが年に何回も有るだろ」
良くわからない理屈を並べて反論してきているけれど、これからの僕の学校生活はまだまだのんびり過ごす事は出来なさそうだ。
「言っただろう付き合う先輩を考えろって」
マロー先輩が同じ言葉をもう一度言って来た、確かにその通りだ。レイと似ていると思うのはこういう所で、一緒に居るととても楽しい事もいっぱい有るけれど、それ以上に苦労もさせられたと思い出した。
「僕は真面目に学校生活を送りたいのですけれど」
そんな僕の言葉を聞いたジャッキー先輩は再び僕の首に手を回して、
「お前みたいなのが、真面目に、学校生活を、送れるはずが、無いだろうが、この、問題児が」
そう言いながらところどころで首を締め上げられた、まあそう言った本人も少しわくわくしちゃってるのだから、ジャッキー先輩の言う事は間違ってはいない。
そんな姿を見てジェイミーは呆れた顔をしていて、その後ろに立っているレイラは眼光鋭く戯れている僕たちを見ている。
そんな僕たちを、白装束の人達が早く退船して欲しそうに周りに集まって来た、どうもすいません。