第113話 今夜のご予定は
「随分と早く決着が付いてしまいましたね」
「まあそう言う事も有るだろう、シリルもそんな経験は無いか」
そうジャッキー先輩に言われて、今までに剣を交えた事の有る人たちを思い出してみた、レイ、JJ、オフィーリア姫、どれも負けて当たり前の相手にしか負けていない事を思い出し、その誰もが本気で相手して貰ったとは到底思えなかった。
アントニオや王子君、ブルーノにアレックスにヘレナ、実力差が有ると言うのもおこがましいけれど、何とか勝てた相手もいれば、時の運で勝敗が変わったかもしれない相手もいる。
実力差と戦っていた時間には、あまり関係が無い様で有るような今までの戦闘経験なので、
「何と無くは解ります、特に性能制限があるとはいえ狩竜人武器で戦っているのですから、その性能差とか相性の様なものもあるでしょうね」
「ぜんぜん試合を見れて無かったんだな、予選は使っても良いけど決勝は狩竜人武器は使って無いぞ」
「そうだったんですか」
「そりゃあそうだろう、ここで勝ちあがったらもう使う所は無いんだから、あれは一種のお祭りみたいなもので決勝戦は能力無しの武器でやるんだ」
それはその通りだ、あれはこの学校でしか行われない年一回の祭りだと思えば、多少の怪我も仕方が無い事なのかもしれない。
「俺も怪我をしたく無かっただけで、本気でやり合ってもマローに勝てたかどうかだから、この一年でヴィクターは相当な力を付けて来たんだろうな」
「もし決勝に残っていたらジャッキー先輩も・・・」
「シリルー、お前は嫌な事を聞く奴だなぁ。でも、あの感じだと俺も負けてたかもな、去年とは比べ物にならないくらいあいつは強くなってるって事か、シリル、来年はお前がヴィクターに勝つんだぞ」
そうか、ジャッキー先輩は卒業するけど、ヴィクター先輩はまだ来年も学校に居るんだった。
それならば、もっと真剣にヴィクター先輩の戦い方を見て置けば良かった。
「もちろんそのつもりで頑張りますよ、でも今年は出て来なかったけど、来年は・・・」
「お待たせ、どうやら決勝は終わってしまったようですね」
来年の最大の障壁であろうジェイミーが姫様との対話を終えて戻って来た、レイラ共々一体姫様とどんな話をしていたのだろうか。
「ああ、話しは済んだみたいだな」
ジャッキー先輩が複雑な笑みを浮かべて返事をした、それを見ていないのかすまし顔のままのジェイミーは僕の横に来ると、
「はい、これ、私とレイラの分ね」
そう言うとジェイミーは僕に褒美の袋を2つ渡して来た、すでに2つ持ってふさがってる左手に無理やり乗せて、
「これだけで済むとは思っていないけど、持っていて困る事は無いのですから受け取っておきなさい」
「いや、ジャッキオー先輩も渡して来たし、これ以上は持てないよ」
ジェイミーが乗せた袋は僕の左手をすり抜けて甲板に落ちてしまった、それを見てジェイミーはため息を吐いた後で、
「わかったわ、今日も部屋へ行くから、寝ないで待っていなさい」
そう言って落ちた褒美袋を拾うとレイラに渡した。