第112話 褒美
「お呼びの三名をお連れしました」
そう言って白装束の男は持ち場へ戻って行った、突然連れて来られたジャッキー先輩達は、僕の横に並ぶと一様に片膝を着いて姫様の言葉を待った。
「よく来てくれた、ジャッキーに、ジェイミーに、レイラだな」
「はい」
「はい」
「はい」
三人は名前を呼ばれたので返事をした、隣で片膝を着いているジャッキー先輩は緊張しているのか声が上ずっていた、
「そこのシリル殿にみんなで力を合わせて学校の危機に対処したと聞いて、卒業生としてその方ら全員に褒美を与えようとわざわざ来て貰ったのだ」
その危機を招いたのは僕たちなんだけど、その事は知らないのだろうか。とはいえここまで来てしまった以上、事情を説明して褒美を辞退するのもどうかと思うし、主犯のジャッキー先輩が緊張で上手く話せないかもしれないし、僕の持っている小瓶でそんな事になるんだと説明をしてしまうと、危険物として部屋に置いて置けなくなるかもしれないし、ちょっとだけ、ちょっとだけ懐事情が寂しいので褒美は素直に嬉しいという事も有る。
「あ、ありがたく頂戴いたします」
ジャッキー先輩が白装束の人から袋を受け取り、同じようにジェイミーもレイラも袋を受け取った。
そんな中で僕一人だけ辞退するなんて事は当然出来ず、そこは空気を読んで目の前に置かれている袋を頭の上まで掲げてお礼の口上を述べた。
「ではそろそろ大事な試合が始まるようなので、試合が終わるまでの見学をしてからの退船を許そう」
「はい、それでは失礼させていただきます」
僕たちはいっせいに立ち上がり飛田の方へ向かおうとすると、姫様は上座から降りてきて、
「ジェイミーと、レイラは残りなさい、少し話しが有ります」
姫様の言葉に僕たちは戸惑ったが、姫様の申し出を断るわけにもいかずにジェイミーとレイラはその場に残った。
僕たちは白装束の人に連れられて甲板に出ると、まさに開始の合図がかかる瞬間だった。
「僕もすぐに準備した方が良いですよね」
僕も決勝を戦わなければいけないんじゃないかと焦った僕は、ジャッキー先輩に聞いたところでわかるわけが無いのだが尋ねた、すると、
「あーそれなんだが、悪いシリル。罰則は免除して貰えたけど、一応不祥事だから代表権は貰えない事になったんだ」
「あ、そうなんですね、わかりました」
あまりにもあっけない僕の返事に拍子抜けしたのか、ジャッキー先輩は驚いた顔で僕の肩を掴むと、
「そ、そんなんで良いのか、怪我までして戦い抜いたんだろ」
「ええ、ですから出ても勝てなさそうですし、それぐらいの罰は受けないと・・・ね」
僕はそう言ってズシリとした重みの有る袋を顔の横に持ち上げた、
「そうかぁ、俺の所為で決勝に出れなくなったから、悪い事をしてしまったと思っていたんだが」
そう言うとジャッキー先輩は、手に持った褒美の袋を僕の袋に重ねて来た、
「え、どういう事ですか」
僕が驚き尋ねると、ジャッキー先輩は笑顔を見せて、
「俺もお前に許してもらうにはこれぐらいしないとな、本来は姫様に失礼になるけど、事情が事情だから大丈夫だろ」
「いやいやまずいですよ、結構な大金ですよこれ」
「いいんだよ、これぐらいなら誤差だから」
「誤差?どういう事ですか」
「ああそれはな、ってもう終わっちゃったか。マローも強いけど、ヴィクターのが強かったようだな」
残念そうに項垂れて握手をしているマロー先輩と、あまり表情を変えていないヴィクター先輩が対照的だった。