第111話 何が何やら
廊下に出るとマロー先輩たちと出くわした、白装束の人に先導されている所を見ると、教室へ直接迎えに行ったのだろう、
「おおシリルじゃないか、お前も船に呼ばれたのか」
「はい、何か話しが有るとかで」
「話し?決勝戦の話しなのか?」
「あ、そう言えば決勝戦でしたね。その話し・・・では無さそうでしたけど」
「ふうんそれは良いけど、お前も自分の剣と盾を持ってきた方が良いんじゃないか」
そう言ってマロー先輩は僕に決勝戦で使う用の剣を見せて来た、急いで朝の準備をしたために全く準備をしないまま登校してしまっていた、かと言って姫様を待たせておいて自分の部屋に行くわけにはいかない。
「ん、何だその生徒は」
姫様が僕たちを見つけて声を掛けて来た、白装束の男は姿勢を正すと、
「甲板にて剣戟の試合をする者です」
白装束の男に続いて、オフィーリア姫だと気付いたのか、ただ単に美人に声を掛けられたからなのかはわからないけれど、マロー先輩も姿勢を正して、
「お初にお目にかかります、マーク・ローランドと言います」
「・・・そうか、シリル様お待たせいたしました、こちらへどうぞ」
姫様は名乗るマロー先輩を一瞥するとすぐに僕に視線を移して右手を差し出して来た、それに気付いたマロー先輩は目を見開いて驚いていた、それには僕も同様に驚いていた、僕を様付けで呼んでいたのは聞き間違いじゃなかったんだ。
「なあシリル、一体どんな関係なんだ」
マロー先輩は失礼の無いように小声で話しかけて来た、とはいえ僕も答える事が出来るほどの関係性が見いだせず、マロー先輩の横を通り過ぎる時に、緊張からか作り笑顔を見せるくらいしか出来なかった。
船の中はアル船長の船とあまり変わりが無いように見えた、船内まで真っ白だったのは姫様の趣味なのだろうか、途中でマロー先輩たちと別れて僕と姫様は別の部屋に通された。
一際白いその部屋は眩しいくらい明るく、真ん中に赤い絨毯が敷かれていて、その上を歩いて行く姫様の後ろ姿はとても神々しく見えた、僕もその後ろを歩いて付いて歩いていたが、姫様が段差を登った辺りで僕は白装束の人達に肩を掴まれた。
突然の事に僕が驚いていると、段差を登り切った姫様が振り返り、
「本来ならばこんな高い所からでは無く、下に降りて同じ高さで話しをしたかったのだが、それはどうしても許して貰えなかったのでな。こんな高いところから出申し訳ないが、どうか私に免じて許してくれ」
僕は肩を掴まれたまま強引に座らされ、何も言わぬ白装束の者たちに少し苛立っていたけれど、姫様と僕が同列で話しが出来ないという事は理解が出来る事だし、その事についても、素直に頭を下げてくれる姫様の顔を潰す羽目にはいかないので片膝を着いたまま僕は平伏した。
「えーと、それでは、えー、褒美を取らす」
姫様がそう言うと僕の前に何やら恭しい器物が置かれ、その中にはちょっとやそっとでは使いきれないほどの金額のお金が入れられていた。
「ちょっとお待ちください、このような物を受け取る謂れがございません。とてもじゃありませんが、受け取る事は出来ません」
これはとても失礼な事だとはその時は知らなかったのだが、その証拠に僕の脇で座っている白装束の男たちの肩が震えているのはわかった、知っていたとしても何の褒美かわからない物を受け取る事はしなかったと思う。
「それはだな、えー、剣戟大会の優勝の褒美だ」
「それでしたら僕の他にも優勝者は居ますし、今学校代表を決めているのではないでしょうか」
「あーそうか、そうだったかな、いや、それはあれだ、雷鳥、雷鳥を倒した褒美だ」
姫様は何を言っているのだろうか、僕が受け答えするたびに両脇の白装束の者たちの肩が震えるのがとても怖いんだけど、
「雷鳥は運よく倒す事は出来ましたが、それは私一人の力ではございません、僕の他にもジャッキー先輩とジェイミーとレイラの力が無ければとても達成できたとは思えません」
「あーそうか、そうだったな、そのジェイミーというのは同級生か」
「はい、とても素晴らしい人です」
「そうか、ならばその三人にも褒美をやろう。ここへ連れて参れ」
姫様は部屋の入口に立っていた白装束の者たちに右手で促すと、白装束の者たちは即座に部屋を出て行った。
「そうか、そんなに素晴らしいか。他には無いか」
姫様は満足そうにそう呟いた後で僕に続きを促した、
「はい、ジャッキー先輩もとても強く、そんけ・・・」
僕がそう言いかけたところで姫様は即座に右手で僕の言葉を詰まらせた、
「そうでは無い、同級生のジェイミーとやらの話しを続けよ」
「え、は、はい、えージェイミーはとても強く、皆に好かれていて・・・」
「ん、どうした」
「あ、いえ、その上・・・」
これ以上ジェイミーの何を言えば良いのだろうか、時々怖い時があるとか、この間漏らしたとか(これは嘘かも知れないけど)、そんな事は言わなくて良いよな、
「従者のレイラと共に課外授業をした時にはとても頼りになりましたし、欠場した剣戟大会も出場していたら僕を倒して優勝していたと思われます」
「そうかそうか、レイラも頑張っているか」
姫様はとても上機嫌になり始めた、僕はこれ以上ジェイミーの何を褒めようかと思っていると部屋の扉が開きジャッキー先輩たちと白装束の者たちが部屋へ入って来た。