第11話 3人の輩
備品室まではそれほど遠くは無かった、道すがらすれ違う生徒たちは、みんなアリスター先生に大きな声で挨拶をしていき、アリスター先生もにこやかに挨拶を返していた事から、とても慕われている先生だという事が伝わって来た。
しかし、そんなにこやかにしていたアリスター先生と備品室に入った時、じめじめとした倉庫特有の空気に交じり、ピリピリとした緊張感が僕の身体を駆け巡った。僕はそんな違和感を拭い去るかのように急ぎ足で片付けられていた机に向かった。
「じゃあ机はそれで、椅子はこれで良いな」
アリスター先生は僕に背を向けて椅子を取り出している、ただそれだけの筈なのに僕の身体はまだ違和感を感じ取っているのか強張っていた。
教室へ戻り、級友のみんなへ挨拶を済ませると、午前中の授業が始まった。
休憩時間になり、僕が居なかった間の事をアントニオに聞くと、座学と体力作りが中心で、一か月の空白期間が有っても追いつける内容だったために安堵した。そして、これからの授業の予定としては、剣や槍など近接武器全般と、弓や魔銃の取り扱い、野生動物の狩り方やキノコや果物、野草の調理の仕方、実際の狩りから調理をして実食、野営の仕方から緊急退避、10日間の遠足に運動会、それからも盛り沢山の内容だとアントニオは教えてくれた。狩竜人の歴史などの座学も有るけれど、それらのほとんどを僕は予習済みだ。
「なんだ、思っていたよりも簡単なんだな」
初登校で調子に乗っていたのだろう、僕は思わず口にしてしまった不用意な一言は、学級中を敵に回すのに十分だった。
「お前、レイナルドの弟子だとか言ってるようだが、それは本当なんだろうな、ちょっと確かめさせろよ」
いかにもな輩が、後ろに子分を引き連れて僕にいちゃもんを付けて来た、こんな所まで来てくだらない事をやっているなと呆れたけれど、レイの名前を出されて僕が黙っている訳には行かない。
僕はぎろりとアントニオを睨み、さっと目を逸らすのを確認してから、
「どうしたら良いのかな、腕相撲ででも決めるかい」
僕はそう言って挑発するかのように絡んできている輩の目の前に拳を突き出した、僕に気圧されたのか半歩程下がって踏みとどまり僕の拳を払いのけて、
「何が腕相撲だ、もう許さねぇぞ、真剣で勝負しろ」
「そうか、しょうがないね」
「そうだ、しょうがねぇんだ、早くあやま、え?」
「いいよ、真剣でやろうよ。いつにする?」
「いや、お前があやまれば勝負はしないでやるんだぞ」
「ああ、そうだったのか気付かなかったよ、ごめんね。これで良いかい」
「・・・それでいい」
三人は僕と目を合わさずに振り返ると、そのまま自分たちの席へ戻って行った。僕は再びアントニオを睨みつけるとアントニオはしょぼんとしていた。