第107話 やっぱりカレーでしょう
教室へ入るといつもよりも閑散としていて、朝から机に突っ伏して居眠りをしている者まで見て取れた、まあその主原因は僕たちの真夜中の大騒動なのだろうけれど。
それでもその主原因が教室に現れたため、一気に教室がざわめきだした、
「シリルー、お前随分楽しそうな事してたじゃないかぁ」
声を掛けて来たのはアレックスだった、眠い目を擦りながら近付いて来て僕の肩に手を回した、
「あれ、当然食べるんだろう。俺にも食わせてくれよ、一度食べてみたかったんだ」
「アレックスおはよう、どうなんだろう、食べる・・・のかな、僕が一人では勝手に決めれないから、相談してからになるけど、あれだけの大きさなら、みんなの分も有るんじゃないかな」
僕の発言を机に突っ伏したまま聞いていたクラスメイトも立ち上がり、僕を取り囲むように殺到した、
「俺にも食わせてくれよ」
「私も食べてみたい」
皆がお相伴に預かろうと口々に勝手な事を言い出した、この場合のみんなというのはクラス全員のつもりでは無く、近しい人物を指していたつもりだったのだが、とてもそんな事を言える状況では無くなってしまった、
するとそこへ、もう一方の主役のジェイミーとレイラが教室へ入って来た。
「おはようございます・・・」
ジェイミーは挨拶をした後で、何か言いたげなジェイミーの席の周りに立っていた生徒たちはぺこりと頭を下げると、僕の囲いを解いて自分の席へ向かって行った、興をそがれたのか他の生徒も顔を見合わせながら一人、また一人と自分の席へ戻って行き、僕もようやく自分の席へ座る事が出来た。
「はあぁ今更全員分の肉は無いよなんて言えないし、どうしようかな」
「シリルとジェイミーさんとレイラさんは一年で、ジャッキー先輩は三年生だから、二年生には分配しなくても良いとは言え、100人前はちょっと量が多いな」
「でも調理方法は決めてるんだ、雷鳥料理は色々食べさせてもらったけど、やっぱりカレーが一番美味しかったんだよね、でも100人分はカレー粉が足りないよ」
「そのカレー粉ってのが無いと、カレーは作れないのか」
「香辛料を調合した物なんだけど、どれだけ入れるとあの味になるのかもわからないし、その香辛料もそんなに沢山は手に入らないだろうからね、カレーは難しいかもしれないね」
そんな事を話していると席に座っていたジェイミーがいつの間にか近くに来ていて話しに混ざって来た、
「その様子ですと、怪我の心配は無さそうですね」
「ありがとう心配してくれて、ジェイミーさんも大丈夫みたいだね」
「ええお陰様で命を落とさずに済みました、改めてお礼の品を送らせて貰います」
「いいよ気にしないでよ、全員無事だったんだから、僕はそれで満足なんだ」
「そうはいきません、恩を受けて返さないのでは私の気が収まりませんので、相当の品を持ってお礼を差し上げます」
「いや、本当に気にしな・・・」
そう言いかけた僕の肩を王子君が掴んで来た、驚いて僕が振り向くと、
「シリル、遠慮するだけが美徳じゃないんだ。お礼を貰って貰えない事は、恥だと思う人も居る事を覚えておいた方が良い」
「え、え、そう言う物なの」
王子君の言葉に驚いている僕を、ジェイミーは優しく見つめて来た、
「恥をかくのは私だけでは無くて、レイラも含まれます。そして更に多くの・・・、これは今は関係ありませんね。ではシリル君、私のお礼を貰って頂けますか」
「はい、謹んでお受けいたします」
僕は思わず席を立って拝礼してしまった、そんな僕を見てジェイミーは、嬉しそうな足取りで自分の席へ戻って行った。
僕は王子君の方へ向き直ると、優しく僕の肩を叩き、
「カレー楽しみにしてるぞ」
そう言って王子君は自分の席へ歩き出した、そして先生が入って来ると同時にアントニオも教室へ駈け込んで来た。