第102話 命綱
怒りに正気を失ったのか雷鳥は高く大きく羽根を広げて吼え狂った、しかし放たれる雷はすべて雷鳥を取り囲むように設置されたワイヤーによって天に放たれる。
目前の邪魔物など軽く除去しながら生きて来たのであろう雷鳥は、思った通りにならない事に更に苛立ちを覚えたのか、羽根を大きく上下に揺らしながら吼えた、時折擦り合わされる羽根からも雷が放たれた、恐らくは雷鳥が電気を纏っているのは羽根を擦り合わせて電気を作り出しているからなのだろう。
世紀の大発見では有るが、今の僕たちにはそれほど意味を成さない、目前の脅威を取り除いた後でなら物凄い発見だと持て囃される事も有るかもしれないが。
「おかしいぞ、なんだか気温が上がって来てる気がする」
最初に異変に気付いたのは僕だった、風と雨で冷やされている筈の身体が火照って来ているのを感じた、ジェイミーも僕の意見に同意してくれたため、僕の気の所為だという事は無いようだ。
「・・・ワイヤーが、赤く光ってる」
雷鳥を囲んでいるワイヤーは僕たちの生命線である、それが有るから雷を受ける事無くここに立っている事が出来る、もしそれが無くなったとしたら。
「レイラ、拘束のロープは大丈夫かしら」
「そこから逃げて下さい、もう持ちません」
レイラからの返事は僕たちを絶望へ落とした、新しい拘束の矢を放とうにも赤く発熱しているワイヤーを触る事など出来ないどころか近付く事すら危うくなって来ていて、レイラも助けに入る事すら出来ないでいる。もがいていたジャッキー先輩も身体を擡げるぐらいは出来るくらいには回復してきたが、まだ戦力にはならないだろう。
そうこうしている内に雷鳥に刺さっていた拘束の矢から炎が出始め、囲んでいるワイヤーからも炎と蒸気が噴き出し始めた。
バチン
僕はこの音を一生忘れる事は無いだろう、雷鳥を地面に縛り付けていた拘束の矢は燃え尽き、囲んでいるワイヤーが音を立てて千切れた。
それは僕たちに死が近付いた音だった。
千切れたワイヤーは地面に落ちると凄まじい音と蒸気を発し、丸く囲まれているのは雷鳥では無く僕たちに変わった。
「生きたまま鍋に入れられたらこんな感じかな」
滴る雫は雨なのか汗なのか、揺れる水蒸気の向こうには羽根を広げた雷鳥がゆらゆらと映り、羽根を羽ばたかせるたびに消えては現れた。
「逃げましょう」
駆け出すジェイミーの手を僕は反射的に掴んでしまった、驚いたジェイミーは目を見張っていたがその事を咎める事はせず。冷静にジェイミーは呟いた、
「もう右手は痛くないのかしら」
「そんな事を言っている場合じゃない、生きるか死ぬかの時に痛い痛くないなんて事は二の次だよ」
「ここから助かる事は出来そう」
「わからない、でも今のあいつに背中を向けるのは得策じゃないと思っただけ」
ジェイミーは大きく深呼吸して頷いた、そうしている間にも雷鳥は少しづつ近付いて来ている。
「何で雷撃をしないのかしら」
「わからない、何か理由が有るのかも」
次第に水蒸気の靄が晴れ始め、雷鳥の姿がはっきりと見える様に成って来た。
ゆっくりと雷鳥は首を擡げ、大きく口を開いた。
雷撃だ、そう思った時に僕は咄嗟にジェイミーの前に立った、僕がジェイミーを守ると言ったから?その時の僕はそんな事は頭の片隅にも無かった、ただ僕はジェイミーの前に立った。