第101話 くたびれ損
正直蹴り足に合わせて剣を振るのは大変だった、目の前まで襲い来る爪に僅かでも触れてしまうと、食い込んだ爪に身体を引き摺り倒されて止めの一撃を喰らってしまう、それでも、僅かでも反撃を試みなければ、そのうちに僕の体力が尽きてしまうだろう、そのためにも前に出なければいけない、纏わりつくように身体に張り付いていた恐怖心を洗い流す事が出来て僅かながらも活路が見えて来た。
明らかに雷鳥は僕の攻撃の様な剣での払いに腹を立てて居る様で、地面に降りては咆哮と共に雷撃をし、そのたびに目標を逸れる稲妻に羽毛を逆立てている。
そうこうしているうちにジェイミーも立ち上がり、僕の後ろで剣を構えるまで回復してきた、
「大丈夫か」
「大丈夫よ」
僕の短い問いかけにジェイミーも短く返事をした、ジャッキー先輩はまだ回復出来ないらしく泥水の中で藻掻いている。
1対1が2対1に、その事は雷鳥に大きな心情的変化をもたらしたようだ、僕らがそうなった場合とは違い、常に勝負に勝たなければ命を失いかねない野生生物において、戦う相手が増える事は避けなければいけない事だと身に沁みているのだろう、ジェイミーが加勢してきた途端に僕たちから距離を取った。
「どういう事なの」
「わからない、多分二人になったからじゃあないかな」
あくまでも推測でしかないが、恐らくは当たっているのだろう、自慢の雷撃も効かない、蹴り足は防がれる。
僕たちの様な人間が捕食対象なのかはわからない、腹が減っている時に目に入れば襲って食べる事も有るだろうけれど、こんな嵐の中でわざわざ外に出ているなんて変わり者は僕たちぐらいだろうから、好んで食べているとは考え辛い。
レイの小瓶が呼び寄せたのだから、あれが鍵なのはわかるけれど、それ以上の事は何もわからない。
もし今、雷鳥が損得勘定をしていて、どこか遠くから小瓶に釣られてこんな所まで来たけれど、その小瓶も布に覆われているし、もう面倒臭いから巣に戻るか、などと考えていてくれれば、僕たちも追いかけてまで狩ろうなどとは思わない、肝心のジャッキー先輩がまだ立ち上がる事すら出来ないのだから。
僕たちも色々と準備したのだから損しかしていないし、雷鳥も痛い思いしかしていないし、痛み分けという感情は野生生物には無いと思うけど、これ以上の戦いは無益だと思ってくれれば僕たちは助かるかも知れない、野生生物相手にそんな甘い事を考えていた。
暫く距離を取っていた雷鳥だったが、意を決したのか空へ舞い上がった、そしてそのまま飛び去ってくれれば良かったのだが、拘束するために打ち込まれた矢がそれを許さなかった。
体勢を崩した雷鳥は地面に落ち、再び僕たちに向けられた視線には決して消えない怒りの光を纏っていた。