3話 ブス
あ
さて、暫く揺られていると遠くに街が見えてきた。城壁に囲まれ、街は少し歪んだ円形をしている。街の中心から渦巻きのように水路が張り巡らせてあるのが分かる。そして周囲には広大な草原と森林が…あればもっとナーロッパっぽくて良かったのだが実際は農村が点在していた。そして農村の一角にまるで教科書で見たコロセウムのような巨大な建造物が聳え立っていた。
ここでコロシアムと言わないのは単にカッコつけたいからである。
城門近くには衛兵が常駐しているそうで、ここで危険物の持ち込みの有無や、身分証などの確認を行うのだと教えてもらった。
だが困ったことに俺はこの世界の身分証など持っている筈がない。慌てふためいていると兵士が近づくや否や腕を掴まれた。
「これは終わった!」
そう一人で実況すると、そのまま投獄されてハッピーエンド……かと思われたが意外とこの、生きるだけでハードモードの世界において身元不明となる事例は多いらしく、すぐ隣の村にある役場で再発行手続きができるとの事。
よほど挙動が怪しいのでクスリでもやってるのではと疑われたらしい。いくらなんでも失礼すぎる。
と言うわけで非常に面倒な話だが城門を潜る前に身分証を発行しに行くことになった。出身地をどう誤魔化すか、名前が珍しくて偽名だと思われたらしないかな、等と不安を抱えつつも、教えて貰った方向に歩いて行くと、道中で容姿の汚い女とすれ違った。顔面にボウリング玉でも転がしたのかと思わせるようなその醜さ加減に呆れて目を背けると、女はあろうことか俺に声をかけてきた。
「アナタ、今すげぇブスだなーって思ったでしょ!」
ただ、怒っているような雰囲気ではなく、ただ興味本位で、と言った感じだったので俺は、
「まあ、見るだけで有害だな、とは。」
とオブラートに包んで肯定した。すると女はニッコリと笑って、本来の顔面を見せてきた。つまりブスを装っていたと言うことだ。というか変顔でこんなに変わるものなのか?普通。
そしてヤンキー捨て猫理論を利用して容姿を褒められたいのかと考えていると女は衝撃的な事を口にした。
「あたし人の顔真似するの得意なんだよねー、久しぶりに手強そうなの来たけど思い通りの感想で満足よ!ありがとね。」
ああ、何と言う事だろう。この世界に来てから鏡を見たことが無かったが俺はとんでもない不細工に生まれ変わってしまったらしい。悲しみに暮れながら役所の建物に入り、ピカピカに磨かれたドアノブに自分の顔を映すと、そこにはこの世界に来る前となんら変わらない、見慣れた顔があった。
あ