1話 転生
現実に存在する如何なるゲームとの関連は御座いません。
クソッ、幾らやってもレートが全然上がらない!
そう叫んで机の上に置いてある参考書やカップ麺の空箱を乱暴に床になぎ倒し、椅子を投げ倒し、ヤカンを張り倒し、壁に四つほど穴を開けた後、再びゲーム機に齧り付いて「続けて遊ぶ」を押す。
俺は本間刑太郎。どこにでもいる平凡な高校生だが、実はそこら辺の凡人とは一線を画す才能を持っている。つまりそれは対戦ゲームの才能である。
民衆バトル、略してみんバト。このゲームで俺は世界一を保持している。先ほどレート、と言ったがこれは対戦相手に勝てば数字が増え、負ければ減るという単純なものだ。レートが大きくなるほど、勝ってもあまりレートが増えなくなる。このゲームで前人未到のレートカンストを目指していた俺だが、そんな理不尽なゲームの仕様に俺は苛立ちが抑えられなくなっていた。
「はあ、また負けか……マイナス18って、取りすぎだろいくら何でも……」
絶対に取り返してやる。沸る感情を辛うじて抑えながら「続けて遊ぶ」ボタンを押すと、突然奇妙な音と共に汚部屋が光に包まれた。
「ああっ、見ないようにしてた俺の部屋の醜態」
そう言うや否や、俺は脳天に直接打撃でも喰らったような感覚に襲われ、気を失った。
どれ位の時が経っただろうか。目を瞑っているが、やけに眩しいのを感じる。まだ光ってんのか俺の部屋。
「てか、怪我とかしてねえかな……」
そう思って目を開けると、そこに俺の部屋はなかった。というか、部屋ですらない。素晴らしいほどの快晴。屋外である。
状況が飲み込めない。無生物への絶命の要求の衝動に駆られたが今はみんバトをプレイしていないのでなんとか持ち直す事ができたという感じだ。
「なんか日本って感じじゃないな……ここ一体何処なんだ、なんでこんな場所に」
とにかく、人がいる場所を探して状況を整理するしかない、と偏差値61の頭脳明晰な俺の判断によって、その場から離れることに決めた俺だが、四方は遠くに山が聳え立っており、視界が塞がれているのでどこに行けばいいのかわからない。
ただここでじっとしていてもその内野垂れ死ぬだけなので、ここは偏差値63らしく、木の棒を立てて、倒れた方向に歩いてみた。
さて、1、2時間ほど歩いた頃だろうか。既に辺りは鬱蒼とした森に囲まれている。そして日も暮れてきたのか、徐々に視界も気分と比例するかの如く暗澹とした様相を呈している。
「俺、なんかやっちゃいました?」
そう言って、不意に不安が募り、走り出した。怖い。死にたくない。一刻も早くここから出たい。願わくばみんバトをやりたい。てか待てよ?ここにくる前負けてレート取られたよな。ふざけんなよ、取り戻させろよ。早くみんバトがしたいんだよ。そんな怒りをぶつけるように只管に走る。……事ができればよかったのだが引きこもりの俺は体力が老人の如く衰えてしまっていたので10秒で限界を迎え、その場にへたり込んだ。
いつの間にか辺りは漆で染め上げたように黒く染まる。電灯のない夜はこんなにも、何も見えないのかと絶望すると同時に、月明かりの存在感を改めて認識する。
「今日はここで休もうか……」
そう言って落ちている岩に腰掛けると、足元が揺らいだ。
「あー、足を酷使しすぎたかな」
と笑った途端、ガラガラガラ、ととんでもなくデカい音がして、宙に投げ出された。そう、腰掛けた場所は不安定な崖際だったのだ。いきなりのことだったので、上下左右も分からず頭から落ちてしまい、当たりどころが悪く、残念ながらご臨終となりました。
完
唐突にモチベが消えました