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39 出張に行く前、ロニーから預かったものが

第39話は、年に一度の360度評価の依頼が山ほど来てしまったホーク。徹夜でやるうちに眠りこけ、土曜の昼に電話で起こされて……。

 その朝は、なんとなく先高(さきだか)感のある相場だった。


 こういう時ロニーがやっていたことを思い出す。


 いくつかの銘柄について、今買ってあとで売りたい気がしてきた。


 アンドレに話す前にジョルジオに訊きたいと思い、彼の席まで歩いて行った。


 過去数週間の株価の推移を見ながら、顧客と電話で話している最中だった。


 彼のスクリーンに出ている銘柄をそれとなく見る。


 電話が切れるのを待って耳元で囁くと、目だけ動かしてこっちを見た。


「さっきセブンオークスが同じのを買ってたぞ」それだけ言って、次の電話に出た。


 このあいだ、ロマネスクは叔父とどんな話をしたのだろう。


 訊きたい気がしたが、今ジョルジオにそんな暇はない。


 席に戻ってアンドレに電話し、トレーダーのライアンに話し、約定(やくじょう)した。


 そのあと興味を持ちそうな他の客にも同じことをした。


 その直後、アンドレが電話を掛けてきて、指値(さしね)注文を出した。


 例によって朝方すぐ買いを入れ、値が上がったら売る注文だ。


 銘柄を聞いて、一瞬「え?」と訊き返した。


 ついさっき、ジョルジオがスクリーンに出していた銘柄だったからだ。


 とはいえ注文通りにライアンに出し、買えたと返事をもらい、電話を切った。


 三分でトイレに行き、コーヒーを買って席に戻る。


 人事部からメールが来ていた。


 見慣れないタイトルだった。


 アダムに訊くと、年に一度やる業績評価だという。


 二週間以内に自己評価を入力し、上下同格それぞれから五人ずつ、自分を評価してもらいたい人を選び上司に送れ、とあった。


 自己評価の質問項目が、ざっと見ただけで六十問ある。


「この商売は数字と客からの評価で決まるんじゃないのか」


「それは別にジェイミーから客当てに出されるんだ。と言っても、やるのはエディだけど」


「やらないといけないのか、これ?」


「やらないと、ボーナス出ないぜ」


 ワシントンでも似たようなことをトニーがやらされているのを見た。


 が、これほど項目が多くはない。


「九月一日時点で社員だったら、該当する」


「九月二日に入社すればよかったな」


「優しく書いてくれよな。おれもおまえのこと褒めるから」


「前の会社と違うのか?」イーサンが言った。


「やってたけど……こんなに多くは……」


「これで驚くな。このあと会社中から、評価してくれって依頼が飛んでくるぞ」


 そうそう、とアダムが寄ってきた。


「少なくとも二十人は来る」


「自分のをやって、他に二十人やって、上司と面談もするのか」上司とは、ジェイミー・トールマンである。


「おまえみたいに人気者だと、二十人じゃ済まねえな」


「それだけじゃない」イーサンがホークのスクリーンをスクロールした。


「見ろ、おまえ自覚してねえみたいだけど、部下が五人いるぞ」


 ええっ。


「聞いてないぞ、そんなの」


 全く知らなかったが、アソシエイトが四人とパメラがホークの部下となっていた。


 よくあることだ、とイーサンが肩を叩く。


 年度の途中に上司が辞めたせいで、行き場がなくなったジュニアスタッフを、急遽割り振られたのだ。


 「こいつらから評価者を決めてくれって依頼が来て、


 そのあとおまえを評価者に選んだ奴らから依頼が飛んできて、


 そのあとこいつらと一人一人面談してレーティングを決めてやって、


 来年の目標とかまで決めなきゃなんねえんだ」


「その合間に自分のも同時進行で」


「期限までにやらないと警告が来るからな」


「それじゃ、いつ営業活動するんだよ」


 これをやんのは土日か休暇か徹夜かだ、と答えが返ってきた。


 


 耳元で携帯が振動した。


 枕に顔を埋めたまま、手探りで携帯を掴んだ。


「頼む、あと三十分眠らせてくれ」相手が誰だか見ずにそう言った。


「キャンベルさん?」聞きなれない女の声がした。


 片目を開けてナンバー・ディスプレーを見た。


「……どなた?」


「ジェニファー・ハドリルです。メイドンヘッドの……」


 両目が開いた。


「ジェニファー。どうかしたんですか?」


「お休みの日に、ごめんなさい」土曜日だが、もう昼近かった。


「何かあったんですか?」


「ずっと迷っていたんですけど……やっぱり、お伝えしようと思って。


 出張に行く前、ロニーから預かったものがありました」


 ホークはベッドの上に起き直った。


「なんです?」


「メモリースティックです」


 ……なんてことだ。


「今、そこにあるんですか」


「はい。戻ってくるまで預かっていてくれ、と言われて」


「……中を、何が入っているか、見ましたか」


「……」見たのだ、彼女は。


「いや、それはどっちでもいいです。これから会えますか」


 ロニーが何を保存していたのかわからないが、既に六ヶ月以上前の古い情報だ。


 それでも、カルロにも報告していない何かが入っている可能性はゼロではない。


「今日は久しぶりに友達に会うことになって。これからロンドンに行くんです」


「何時頃、ロンドンに着きますか?」


 メイドンヘッドから来るのなら、パディントン駅だろう。


「場所を指定してください」


 ジェニファーはどこでもいいと言ったので、ケンジントン公園で待ち合わせることにした。


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