同棲ですね
冒険者ギルドは混雑していた。
昼間の冒険から帰った冒険者たちが報酬を受け取ったり、ナンヤカンヤ申請してたりする。
長椅子が人でビッシリ埋まっている。
それにしても服装が普通のタメに(みんな魔装は解いている)、まるで冒険者という感じがしない。格別マッチョでもないし、荒れクレてもいない。
シュマホーをイジったり、仲間たちと話したり。
入り口のソバにいる帽子をカブったオネーサンに寮の場所を聞くと、すんなり場所が判明。冒険者ギルドの裏にあり、階段の奥にあるドアから渡り廊下が伸びているらしい。
マサヒコとアリスは言われた通り、ロビーから階段のある廊下へ出て、奥のドアをクグった。
冒険者ギルドの裏庭に出た。
暗いのでよくわからないが畑だか花壇だかがあるようだ。渡り廊下には青い光のランプが吊り下げられていて、周囲を青白く照らしている。
なんだかブキミな雰囲気。
アリスがマサヒコのブレザーのスソをツカんだ。
「マジ、こーいうの苦手なんだけど」
今までのマサヒコならば女子のこんな態度に、アザトイっ、と思ったカモしれない。だが、される当事者になってみるとキュンとくる。
あっ、俺、頼られてる。フフっ、俺が守ってヤルゼ、みたいな。
渡り廊下は短く、すぐに寮についた。
ドアを開けると、いきなり白い箱のような部屋だった。一辺が2メートルほどの立方体。足元には魔法陣が描かれている。
「えっ、いきなり行き止まりじゃん」
「ソコにナンカ書かれてるよ。えーと、ドアを閉めると洗浄が始まります」
正面の壁にそんな説明書きがあった。
マサヒコはドアを閉めた。
すると足元の魔法陣が青く輝いた。ブオォォーと風が左右から吹き付けてきた。
ナンダナンダと思っていたら今度は前後からブオォォー。
トドメとばかりに最後は床と天井からブオォォー。
マサヒコが期待してチラッと隣を見るとアリスがスカートを押さえていた。しかし、ゼンゼン押さえきれず、ピンク色のツルツルパンツがバッチリ露出していた。
風はすぐに止み、正面の壁がズズズっと下へスライドして消えた。その奥に廊下が現れる。
手前に番台のような小さなカウンターがあり、お婆さんが中に座っていた。
「アンタたちが新入りだね。ほら、【ギルドカード】を見せな」
「あ、ハイ」
マサヒコはすぐにブレザーの胸ポケットから、金属板のカードを取り出し、カウンターに置いた。
アリスもマサヒコのカードに重ねるように置く。
お婆さんがカウンターの奥にあるパソコンのようなモノにツナがった機械に、カードを当てると画面にウィンドウが現れた。
マサヒコたちからはよく見えないが、ソコにナニヤラ個人情報が書かれているっぽい。
「なんだい、もうローンなんて組んじまって」
「エヘヘヘっ、コレが欲しくてさ」
アリスがシュマホーを見せる。
「それにしても、レベル1にしちゃあ、ケッコーなステータスだね。こりゃー、期待の新人かもよ」
「てか、お婆ちゃんも冒険者だったの?」
「そうだよ。これでもAランク冒険者だったんだからね。今でも、アンタたちくらいなら片手で足りるよ」
お婆さんはフランソワと名乗った。寮母だそうだ。
「部屋の空きはあるんだけど、ルールで相部屋って決まってんだよ。アンタたち2人で1部屋でイイね」
えっ、2人1部屋。ソレ、同棲ってコト?
マジでっ。
マサヒコはとても動揺した。女子と同じ部屋で寝泊りトカ。しかも、経験豊富なギャルと。
イヤイヤ、そんなマンガみたいな展開ないでしょ。あるわけないでしょ。
そんなん女子が嫌がるっつーの。
「別にイイんじゃね? 知らん人と一緒より、マサの方が楽だし?」
アリスがまったく動揺せずに言った。
「アンタも、イイっしょ?」
うん? と小首をカシげてマサヒコを見る。
「え、で、でも、その、マズくない? その、イロイロ」
チキンなマサヒコであった。
「オイっ、なにエロいこと考えてんだよっ」
言ってアリスがバンっとマサヒコの尻を蹴った。
「ウチ、コレでも、テイソーっての、結構しっかりしてっから。ツキアってもないのに、エッチとか、ねーから」
「イヤ、そんなコト考えてないから」
「嘘つけ。エロ。エロマサ」
言って、またバシッと尻を蹴る。そんなアリスの顔もほんのり赤らんでいる。
「なんだい、なんだい。初々しいねえ。ホレ、コレがカギだよ。201号室な」
お婆さんが【ギルドカード】と番号札(金属)のついたカギをカウンターに置く。
「食堂で朝、昼、晩、タダで食べられるからね。モッタイないからちゃんと食うんだよ」
「アーイ」
アリスが返事をする。
マサヒコも一拍遅れて返事をした。
「寮則は部屋に書いてあるから、ちゃんと守るんだよ」
マサヒコは部屋に向かう最中ドキドキが止まらなかった。ワクワクも止まらなかった。
女子と同棲。しかもギャル。経験豊富。
様々なエロい展開が頭をヨギる。
近日中に脱童貞あるカモしれない。
「てか、アンタ、やっぱ、ドーテーなの?」
いきなりアリスが言った。
「……ノーコメント」
マサヒコは下を向いて答えた。
なんというか、ただただ屈辱。
「絶対、ドーテーじゃん」
「イイだろ、どうでもさ」
「……まっ、イイけど」
アリスは少しウレしそうな顔。
マサヒコは下を向いていたので、彼女のそんな表情を見ることはなかった。
201号室は2階の一番手前の部屋だった。木製のドアを開くとセマい6畳間。片側に2段ベッドがあり、片側に四角いテーブルに椅子2脚。
アトは木製のチェストがあるだけ。実に質素な部屋である。コンクリート打ちっぱなしで壁紙も貼られていない。
ドアの内側にプレートが貼ってあり、ソコに寮則が書かれていた。
寮内での戦闘禁止。寮内にペットを持ち込まない(ただし小型化可能な【乗魔】はOK)。寮内で魔物の解体を行わない。自室以外で魔法を使わない。
などなど。
大して厳しくはないようだ。
「ウチ、上だから」
文句あるか? という様子でアリス。
「べ、別にイイよ」
「あっ、またエッチなコト考えてるだろ」
「か、考えてませんから。マジで」
メチャクチャ考えていた。
アリスがハシゴを上って上のベッドに行った。ウレしそうな声を出す。
「ウチ。2段ベッド憧れてたんだ」
「へー。うちは弟がいるけど、部屋別々だからなあ」
「……お兄ちゃんか。ゼンゼン、見えんし。超弟っぽい」
「そ、そう?」
マサヒコ、ムダに部屋をウロウロ。
「てか、疲れた。今日、イロイロありすぎじゃね?」
「まだ、この世界に来て、1日経ってないんだよね。ゼンゼン、そんな感じがしないけど」
昨日の今頃は家で、まったりラノベを読んでいたハズである。あまりにも懐かしい。
あの頃の自分に、こんなラノベのような展開。ギャルとの同棲生活が始まるなど想像もつかなかった。
それからアリスはシュマホーをイジりだしたのか黙ってしまった。
マサヒコはともかく椅子に座った。
窓の外をノゾいてみる。今さら思ったが透明度の高いガラスである。マサヒコがいた世界と遜色なさそうだ。
ヤッパ魔法でイロイロ作れちゃうのカナ。
窓の外の街並みは以外と明るかった。
しばらく、そうしてナンヤカンヤ考え事をしながら、景色を見ていると小さな寝息が聞こえてきた。
アレ、鈴木さん寝ちゃったのか?
どうしようか、とマサヒコは思った。
疲れてるだろうし、このまま寝かせておいた方がイイ気もする。だが夜中に起きてしまって空腹で眠れないのもカワイそうだ。
とりあえず起こすか。
マサヒコは緊張しながらハシゴを上った。
寝ている女子を起こすトカ。なんともいえない緊張感だ。
アリスは仰向けになって寝ていた。クウクウ寝息をタテている。シュマホーを両手で抱え、口半開き。
幸せそうな顏なのはシュマホーの夢を見ているからか?
とにかく、アドケない寝顔。
マサヒコはエロい気分など忘れて、しばらくその寝顔に見惚れた。
ギャルじゃなければなあ……イヤ、ギャルもイイなあ。