シュマホーゲットだぜ
「マジ、悩むんだけどー。ねー、マサ、どっちがイイと思う?」
アリスが飾り棚を行ったり来たりして、陳列されたシュマホーを交互にナガめている。
冒険者ギルドで無事、【ギルドカード】を受け取ったフタリは、すぐにシュマホー屋にやってきた。
店員さんに【ギルドカード】を提示。ローンオッケーであることを確認したアト、アリスは機種を選んだ。
店員から機種ごとの特徴を聞き、候補は2つに絞れた。だが、そこからが長い。
赤いシュマホーとオレンジ色のシュマホー。
赤い方が小型で、オレンジ色の方が多機能。
「どっちでもイイんじゃない? あんまり変わんないしさ」
マサヒコは女子受けの悪い返答をした。
彼女がいたことがないので仕方がないことである。
「ハっ? マジ、ありえいんだけど、その態度」
ギロっ、とアリスがニラむ。
「えっ、あ、ゴメン」
謝りながらも、えっ、なんで怒られたの? などと思った。
「アンタは選んだワケ?」
「イヤ、俺は別に買わないから」
「ハアぁ? なんでー?」
本気で驚いている。
「やっ、だって、別に使わないでしょ。ネットもできないし、ゲームもないし」
「通話できんじゃん。メールもデキんじゃん。時計にもナンじゃん。アト写真も、動画もトれるし? 計算機にもナンじゃん」
「ウン、まー、いらないカナ」
「マジでー。ホント、意味わかんないから。シュマホー買わないトカ、ないから」
イヤ、むしろなんでそんなに欲しいんだよ、とマサヒコは思った。
「ソッチこそ。ローンなんかして大丈夫? 祝い金も使っちゃうんでしょう?」
頭金として1割払うことになったのだ。
その方が安くすむとのコト。
「別にイイじゃん。これから稼げばいいんだし」
「うわっ、破産しそうな考え方」
「ハっ? ウチ、これでもお金には超キビシーから。マジ、ケンヤクカーだから」
なんだ、ケンヤクカーって、疑問符が頭に浮かぶマサヒコ。すぐに倹約家のコトだと分かった。
危うく新しい車のタイプかと誤解するところであった。
「ウウっ、マジ、悩むんだけどー」
「じゃあ、ソッチのオレンジのヤツでイイんじゃない? すでに300曲が収録されていて、動画もバッチリとれるんでしょう?
アト、『腐敗の聖典』と『魔物大百科』と『水の物語』も読めるんだっけ」
マサヒコなら機能でオレンジを選んでいるだろう。というか目当ては『魔物大百科』だが。
「赤の方がカワイイし」
「じゃあ、赤でイイじゃん」
「ウウぅ」とアリスが行き来をヤメて、その場で、体をクルクル回して両機種を見る。
「まー、音楽も本もアトで買えるみたいだし。気に入った方でイイんじゃない?」
それに、パッとアリスの顔が輝いた。
「それもそっか。ウン、赤にしよう。こっちくださーい」
アリスが店員に赤いシュマホーを指さす。
マサヒコは自分の意見が決定打となったことに気をよくした。
基本的にアリスは素直だ。あの精神的にキツかった訓練を経て、マサヒコはアリスに対しての壁が薄れていた。
「てか、マジ、買わんの?」
「ウン、フタリとも金が無くなったら、困るじゃん」
実を言えばマサヒコも多少は欲しい。
本を読めるというのがソコソコ読書家である(マンガの方が読むが)マサヒコには魅力的なのだ。
だが、フタリとも無一文になるのはさすがにマズい。
冒険者ギルド寮をいきなり追い出される可能性もある。
「そっか。ナンカ、アリガト」
アリスがモジモジして言った。
ウワっ、カワイイ、とマサヒコは思った。
ギャルだけど、カワイイ。
シュマホーを受け取り(5万8千エーン)、
その使い方などの説明を受け、店を出たのは5時すぎだった(スマホの時計を見た)。
すでに日は落ちて周囲は暗くなり、気温も下がり、肌寒くなっていた。
「じゃあ、冒険者ギルドに戻ろうか」
寮の場所を聞いていないのだ。なにしろ、【ギルドカード】を受け取ったら即シュマホーを買いに走ったのだから。
アリスが夜の暗がりでボンヤリ光るシュマホーを、シュッシュッとイジりながら、うなずく。
「歩きシュマホーはダメだよ」
「分かってるし。ウッチーそれでヤンキーにブツかって、カラまれてたし」
「ああ、最初、イキってたけど、すぐに謝り倒したんだよね」
別れギワにアリスの顔をグーで殴ったというレジェンド元彼である。
「ウン、超ダサかった。コイツないわー、って思った。ヤンキーが冗談でウチとヤラセてくれたら許してやるって言ったら、あっ、全然、イイっす、どうぞどうぞ、だから。マジ、死ねって思った。それにムカついたヤンキーにボコられてたけど」
ウワっ、それはないな。
マサヒコもドンビキするクズっぷりである。
「よくそんなのとツキアってたね」
「自信タップリでオラついてるのがイイと思った時があってさ。普通に、クズだったから半年で別れたケド」
中学卒業の春休みから高1の夏頃までのツキアイだったそうな。
「そのアト、すぐ、トヨ君とツキアったんだよね」
「そっ。2学期始まった時に別れたけど」
マサヒコが推しているアリスの3番目の彼氏で大学生のトヨは寡黙な男であった。合コンで物静かな雰囲気に魅かれたそうな。
ただ、フタリきりだと、ものスゴい饒舌で、ひたすらマニアックな話を続けていたとか。彼は歴史オタクだった。デートの旅に城や歴史博物館に連れていかれてウンザリしたという。
「トヨ君イイのになあ」
「まー、悪くはなかったけど。あんま、人の話聞かないし。ウチといる時も本読んでるし。エッチの時、変なカケ声するし。ウイヤツ、とか、ホレホレ、とか。殿様カヨ」
最後の項目でマサヒコは笑いそうになりながらもエロスな気分になった。そう、隣を歩くギャルはカナリ経験豊富。
シュマホーのほの青い灯りが緩いエリ元からノゾく胸の谷間を照らしている。アリスはカナリ胸が大きい。
やはり男に揉まれると大きくなるというのは本当だったのか、などとゲスなコトを考えてしまう。
あっ、チンチンが立ちそう。
だが、暗いからセーフだ。