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銀行っぽくね?

 フタリは車道を横断して『冒険者ギルド・ベルドーン支部』の前に立った。

 マサヒコはドキドキ、ワクワク。この中には冒険者たちがタムロっているに違いない、と期待に胸を弾ませていた。

 アリスの方は、それほどファンタジー知識がないので、なんか役場みたいなトコ? などと考えていた。


「じゃ、じゃあ、開けるよ」


「早く開ければ」


「ここからフタリの冒険が始まるのであった」


「普通にキモいんだけど」


「えっ、ゴ、ゴメン」


 ドアが勝手に開いた。

 中から出てきた人物にドアの前に立っていたマサヒコが盛大にブツかる。フっ飛ばされた。


「おっと、悪い。ケガねーか?」

 スキンヘッドの屈強な男だった。

 倒れたマサヒコに手を差し伸べる。


「あっ、コッチこそスイマセン。そちらこそ、け、ケガ、ありませんか?」

 マサヒコが言った。超萎縮している。


 スキンヘッドは苦笑い。

「あー、大丈夫だ。悪かったな、坊主」

 言って立ち上がったマサヒコの頭をナデナデして去っていった。


「冒険者っぽい。イヤ、もうSランクとかそういう感じじゃない? 今の人」

 マサヒコは頭をテカテカきらめかせて遠ざかっていくスキンヘッドを、憧れに満ちた瞳でナガめた。

「カッケェー」


「イイから、そーいうの。さっさと入る。マジ、トロすぎなんだけど」

 アリスがマサヒコをグイグイ押す。


 マサヒコは押しやられるように店内に入った。


 冒険者ギルド内はマサヒコの期待した冒険者がたむろする酒場という感じではなかった。

 広いロビー。半ばほどでカウンターで仕切られ、その奥は普通の事務室のように机が島になっている。

 パタパタとモニターの前に座り、まっ平のキーボードっぽいモノを叩く、シャツに青いベストという制服姿の職員たち。


 カウンターの前にやはりデッカいモニターがあり、そこに番号が表示されている。

 カウンターには番号の描かれた窓口があり、ソコに1人ずつ女性職員がついている。

 ちなみに男性職員はエリにネクタイ。女性職員はリボンタイ。男性職員は青いスラっクス。女性職員は青いプリーツスカートである。


 そして、カウンターの手前側には背もたれのない長椅子が平行に並んでいる。ソコに座って待っている者たち。


 男はシャツにジャケット。女はワンピースか、スカートにパフスリーブのシャツという服装が多い。ファンタジーっぽいような、ファンタジーっぽくないような。ヤヤ微妙な服装が多い。

 間違っても、金属鎧と腰に剣のオッサンとか、ビキニアーマのオネーサンとか、弓を背負ったエルフとか、マントのフードを降ろして杖を立てかけた老人とかはいなかった。


 そう、ヨーロッパっぽくはあるが、ファンタジー要素が薄いのだ。


 マサヒコはガッカリした。

 なんだよ、エルフいねーじゃん。ピチピチの服着た女魔法使いもいねーじゃん。

 100歩くらい譲っても、ムキムキで半裸にベルトをカケたような蛮族っぽい戦士くらいはいて欲しかった。

 ツノのついた兜をカブったヒゲもっさりのドワーフとかいてほしかった。


「てか、コレ銀行じゃん」

 アリスが言った。

「超フツーじゃん」


「なんかさ、もう、さ。ヤル気なさすぎない。冒険者のボの字も雰囲気出てないじゃん。誰も武器もってないじゃん。なに、銃刀法とかあるの、この街」

 ブツブツと文句を言うマサヒコ。


「当店へはどういったご用件でしょうか?」

 ロビーの入り口付近に立っていた女性職員が声をかけてきた。頭にちょこんと箱型の小さい帽子を乗せている。手には白い手袋。靴は青いブーツ。


「ちょ、その制服、可愛くね。マジ、アガるんだけどぉ」

 アリスが言って、女性職員を無遠慮にジロジロ見る。

「オネーサンもマジ、レベル高いし」


 ソレに女性職員が照れた。白い頬にポッと赤みがさす。

「冒険者ギルドへは初めてお越しですか?」


「初オコシでーす。ウチら、なんにも知らないんですけど。冒険者ヤリたい、みたいな? ゼンゼン初心者なんですけどぉ」


「それでしたら講習を受けられてみては? 講習の終わりには登録もできますよ」


「ソレって、お金カカる系? ウチら、お金持ってなくてー」


「無料ですよ」


「じゃ、ソレで、ヨロシク」


「では、アチラの5番窓口へどーぞ。番号札は取らなくても大丈夫ですからね」


 ポンポン話が進んでいく。

 さすがはギャル。行動力とコミュ力の塊である。


「ホラ、行くぞ、マサ。ボーとしてんなよっ」


 現実を目の当たりにして、まだブツブツと文句を言っているマサヒコをウナガす。


「あっ、あー。ウン」

 マサヒコ、露骨にヤル気が失せている。

 もう、なんかベッドで丸くなってゴロゴロしていたい気分である。


 それでもアリスのアトに続いて、5番窓口へ行く。窓口には三十路みそじほどの女性。

 並んで丸椅子に腰カケたアリスとマサヒコに講習会のスケジュールを説明してくれた。


 1時間ほど座学で冒険者のシステムやルールを学び、1時間ほど簡単な戦闘訓練を受ける。終わったら【ギルドカード】が支給。ついでに祝い金として1万エーンが支払われる。


「マジ? 登録しただけで、1万貰えるとか、超お得じゃん」

 アリス、祝い金に大いに食つく。


「また、登録後1ヵ月は、無料でギルド寮をご利用いただけます。寮では3食食事がでますよ」

 受付嬢が言った。


「助かる。お腹ペコペコだったんだよね」


「でしたら、軽食を食べながら、講義をしましょうか。あ、講義は、私、レミネス・マルテンが行います」

 ニッコリと笑って言った。


「超イイ人じゃん。ねっ、マサ、冒険者ギルド、最高じゃね?」

 アリスがマサヒコの腕をツカんで、ユサユサ揺すりながら、喜びをアピール。


 一方、マサヒコはアリスのスキンシップにドキドキしながらも、キナ臭さを感じていた。

 話がウマすぎる。登録しただけで1万円貰えるなんてオカシイ。コレはナニか裏があるのじゃないか。イヤ、むしろ詐欺?


 アリスはお気楽で能天気で、絶好のカモかもしれないが自分は違う。ウマい話には裏がある。

 モテない陰キャがいきなりクラス1の美少女から告白されたら、それはドッキリなのだ。

 アイドルにスカウトされてついていったら、いつの間にかセクシー女優にされているのだ。


 世の中、いたるところに罠が張り巡らされているものなのだ。


 コホン、とマサヒコはセキばらいした。

「えーと、今までの話を総合したところ、どうもナットクがいかないというか。つまり、なんていうか、ナニカ、不合理というか」


「ハイ? どーいったところがでしょうか?」

 三十路みそじ受付嬢レミネスが不思議そうな顔で言った。


「ナニ? もっとハッキリ言えよ。言い方、キモいから」

 アリスがニラむ。


「えっ、だって、話がウマすぎるじゃんか。2時間講習受けただけで、1万円貰えたら、みんな冒険者登録するでしょ。1ヵ月間、無料で住むところ提供してもらえたら、寮は住所不定の人たちで満員だよ」


 フフフっ、と三十路みそじ受付嬢レミネスが笑った。上品な笑いにマサヒコはちょっとひるんだ。


「その慎重な姿勢は素晴らしい思いますよ。冒険者たるもの、そうでなくてはなりません。簡単にダマされるお人好しでは、ロクなことになりませんからね。かくいう私も、冒険者時代に盗賊にダマされ、身ぐるみをハがされた上に娼館に売られたことがあります。疑う心は大切です」


 サラっと悲惨な過去をポロリする三十路みそじ受付嬢レミネスだった。


「ただ、冒険者ギルドのシステムに関しては、その疑いは無用です。冒険者ギルドは大陸一の大商会である『トーダ商会』の支援を受けていますから。確かに、貧して冒険者登録される方も多いですが、そういった方が一時的に糊口ここうをシノぐために利用されるのも悪いコトではありません。盗賊などになられるよりは、冒険者になられる方が、よほど世の中のタメですからね。ソレに祝い金を受け取れるのは、初登録の時だけですから。登録抹消後、もう一度というワケにはいきませんし」


「じゃ、じゃあ寮はどうなんですか? 1ヵ月無料でとか、オカシイじゃないですか」

 マサヒコはムキになって言った。詐欺だ、詐欺に決まっている。絶対、ダマされてなるものか。


「ノチほど説明しますが、登録後1ヵ月間は3日に1件は依頼を受け、ソレを果たさなくてはなくてはなりません。ですので、一時的に住居を得るという考えで、登録された方も、冒険者としての実績を積むコトになるのです」


 グヌヌヌっ、とマサヒコは心の中で歯ギシリした。

 なんというコトだ、彼は論破されてしまった。


「てか、アンタ疑いすぎだから。素直に喜こんどきゃーイイじゃんか」


「で、でも、さ。どーして、この人、俺たちにオゴってくれようとしてるワケ。ソレ、絶対変でしょ。ウマいコト言って、詐欺の受け子とかに加担させられたりするカモしれないじゃないか」


「あっ、別にオゴりませんよ。食事代は祝い金から引かせていただきますから」

 ニコニコ笑顔で言った。

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