雪山に銃声が鳴り響くとき
僕は1人、雪山の山頂から200メートルくらい下の岩場に伏せて父さんの形見のライフル銃のスコープを覗き、雪山を登って来る敵兵に狙いを定めている。
1週間程前、国境を接していた大国の軍隊が国境を突破して雪崩込んで来た。
村の人たちも志願して前線に向かった翌日、敵の別動隊が雪に覆われた山々を越えるルートから、僕たちが住む村がある地方に向かって進軍してくる。
村がある地方で志願兵を募集していた国防軍の後方部隊が、残っていた志願兵たちと共に敵が進軍してくると思われる国道沿いに布陣した。
最初に国境を突破された町や村から命からがら逃げて来た人たちの話しでは、敵兵は女の人たちに乱暴を働き身ぐるみを剥ぎ、最後は老若男女の区別無く殺してるらしい。
だから村に残っていた僕を含む女子供に避難命令が出た。
僕は母さん姉ちゃん隣の家の小母さんや幼馴染の女の子たちと避難を始めたんだけど、避難しようとしていたときに思い出したんだ。
狩人だった父さんに以前教えられた、僕が今居る雪山に犯罪者や密入国者が使うルートがある事を。
母さんに嘘をついて父さんの形見のライフル銃を持ち雪山に登った。
そうしたら案の定、敵の部隊が山を登って来るのが見えたんだ。
こいつ等が山を越え村側に雪崩込んだら国道沿いに布陣している味方だけで無く、避難している母さんたちまで蹂躙される。
僕は心の中で母さんたちに分かれを告げ、この岩場で敵兵に狙いを定めているんだ。
此方のルートを教えられた時、此処でやってはいけないことも父さんに教えられた。
だけど僕はあえてそれを行う事にしたんだ。
それを行えば山を登って来る敵兵を全滅させる事が出来るから。
登って来る敵兵の中の偉そうにあれこれ指示を出している将校らしい男に狙いを定め、撃つ。
命中、弾を受けた胸から血が流れ出る。
ライフル銃を撃ったことで雪煙が上がり僕の居場所を掴んだらしい多数の敵兵が、僕目掛けて撃ち返して来た。
それを案内して来た男たちが止めようとしている。
でももう遅いよ、僕の後ろからゴゴゴゴって音がして後ろや周りの雪が下に向けて動き始めたから。
雪山の村側は風が強くて雪は余り積もらない、でも此方側は雪が積もりやすくちょっとした音や振動で雪崩が発生するんだ。
僕は山頂の方から押し寄せて来た大量の雪に巻き込まれ押し流される。
意識を失う前に僕は、家族全員でクリスマスを祝っていた一昨年のクリスマスイブを思い出していた。