オレのパーティーになぜか魔王の娘がいるんだが
どうしてこうなった。
勇者――ハルトは、深い溜息をついた。
「もう、お父さんの、わからずや!」
「ワシは認めん、絶対、認めん! ああ、もう、むり。ワシちょっと世界滅ぼしてこようかな……」
漆黒の鎧に赤のマントを羽織った、『魔王』ジークフリードが、両手で机を大きく叩く。
「ちょっと待ってよ、今、世界を滅ぼされたら、あたしたち結婚できないじゃない」
おい、余計なこと言うな。
そう思ったときには、もう遅い。
ジークフリードの血のような真っ赤な瞳が、ハルトをきつく睨みつけた。
魔王を目の前にして、震え上がらない人はいないだろう。そう思うハルトも数々の修羅場を潜り抜けてきたが、今まで経験した中で、おそらく、この状況が一番やばい。
なんせ、オレのパーティーになぜか魔王の娘がいて、その娘とオレは、今、付き合っているのだから。
そんな、ベターな話があるかと、神に問いたいね。
ちょっと、ご挨拶する感覚だったんだ。それが、どうして、こんなことに。
「おい。勇者、うちの娘とは……その、どこまでいったんだ」
返答次第では、すぐに殺すと目が語っている。
「もう、そんなの、お父さんの前で言えるわけないじゃん」
イリアナは、頬を赤くして言う。恥じらう乙女といった感じか、耳たぶまで真っ赤に染まっていた。
ジークフリードは、地響きのような歯ぎしりをする。頭から血管が浮き出て、今にもキレそうだ。
これじゃあ、どっちが悪者か、わからねえよ。
娘のイリアナは、魔王とおなじ赤い瞳をしていた。それでいて、肌が白く絹のような白い髪が特徴的だった。
最初の出会いは、イリアナが道端に倒れていた。話を聞くと、お腹が空いて動けなくなっていたらしい。近くの酒場で、ご飯を奢ると、小さな身体には似合わず、すごい食欲を発揮していた。
その身体のどこに入るんだ、とおもわずツッコまずにはいられない。牛一頭分の肉を軽く一人で平らげた。
魔法が得意らしく、イリアナの魔力量は桁違いだった。
パーティーの中でも明るく盛り上がてくれる、いいヤツくらいに思っていたが、向こうは、そう思っていなかったらしい。
まあ、色々あって現在にいたる。
これなら、聖剣『エクスカリバー』を持ってくるんだった。
そういえば、死んだ爺ちゃんが、剣士たる者、どんなときであっても剣を手放してはいけないと言っていた。
こういう意味だったのかと、今になって、ハルトは、しみじみに思う。
だが、娘の父親が『魔王』とは、誰にも予想がつかない。
くそう、どうする。どうすればいい。
魔王を倒すことは、世界にとっていいことだが、イリアナにとっては、どうだろう。
『魔王』――とはいえ、父親だ。
そうだ、発想の転換をしてみよう。
イリアナと結婚すれば、次の魔王候補がオレになるというわけだ。もしかしたら、今の魔王――ジークフリードもすぐに引退して、その席をオレに譲ってくれるかもしれない。
おう! 誰も傷つかない、幸せな世界の誕生だ。
これぞ、第三の選択肢!
「お父さん!」
ハルトは、意気揚々と叫ぶ。
「あん?」
その瞬間、マイナス5℃まで、一気に気温が下がったのを肌で感じた。
もう、だめかもしれない。
つづく。
のか?