終わり始まり(5)
「……三度目、か」
三度訪れた草原の世界。
見慣れた風景であると同時に、いつも変わらないこの景色にどこかで見たような既視感があり、俺を膝枕しているプルに聞いた。
「ここはお前の固有世界なのか?」
「ああ、兄様も竜と戦ったのですからわかりますか」
素直に認めたプルは証拠とばかりに天へ手を伸ばすと、雲ひとつない青空に鈍色の雲を浮かばせたかと思えば雨まで降らせ、しかし俺たちの周囲だけは濡れないように配慮していた。
「私は流石に現実を改変するなんて真似は出来ませんし、誰彼構わずここに連れては来られません」
通り雨が止むと日差しが俺たちを照らし、周囲の湿気は空気と化して湿り気もなく消えていった。
「ここにいていいのは、私と兄様だけですよ」
確かに俺には出来ない芸当だし、そもそもどうやってこんな空間を作り上げているのか原理すら窺い知れない。
俺の様子からそれに気づいたのか、小さくくすりと笑う――逆光でうまく見えないが、おそらく自慢げな表情も浮かべているんだろう――様子が窺えた。
身体が寝ている状態なのにここでまた眠りに落ちそうな穏やかな心持ちにさせられるのはどうなんだろうと思ったが、だからと言って俺にはどうする事も出来ない。
しばしの間、俺たちに静かなだけの時間が訪れる。
「それで、どうするんだ」
ここに招かれたとて、お互いの意思は変わらない。
ここで絆されるようでは、お互いの決意はなかったも同然だからだ。
「……そうですね……」
それでもプルは、考えるそぶりだけで答えを出さない。
頬を撫でる手つきは変わらず、まるで人形のように寸分違わず動き続けた。
「――元へと、戻りましょうか」
そんな言葉と共に、プルの手つきが止まった。
陽が傾いてようやく見られたプルの表情は、内面を何も写していなかった。
「だって、兄様が私の思い通りにならないなんて、有り得ないもの」
「……どういう、ことだ?」
口の端が動き、目が弓形になり、笑っている時の顔つきになる。
そういう表情を今作りました――そう言わんばかりの動きだった。
「大丈夫。静かにしていれば、兄様は元の兄様だもの」
「プル!?」
身体を反転させて動こうとしたところで、俺は自分の下半身がすでに無くなっているのに気づいた。
痛みも辛さも何もない。それはただ単に、雪が溶けて水になるような自然さで俺の身体が失くなっていく。
「ダメだ! 俺は――」
プルに手を伸ばすその手も、顔に届く事すら出来ずに視界の中で溶けた。
胸も無くなって消滅の流れが首元まで迫る認識はきちんとあるのに、どうして俺はまだ生きているのか不思議に思いながら、あっという間に俺という存在が消えていく――
「――そう簡単に死なれては儂も困る」
「「!?」」
突然、俺の喉から知らない男の声が流れた。
プルも予期していなかったのか、初めて余裕のある表情が消えて俺の頭を掴もうと手を伸ばす。
「そら、出ていくが良い」
しかしその手が俺に届く前。
誰かに捕まれる感触の後、力加減など一切ない勢いでどこかへ飛ばされ、そして俺は気を失った。




