だからどうした! 俺は前へと進むだけだ!(1)
生身では耳をつんざくような声を狼煙に、戦いは始まった。
固有領域が展開され、前回と似ていながらもどこにも足場のない溶岩の海に叩き込まれた。
俺はとっさの判断で黄竜の力を用いて、足場を作って難を逃れた。
しかし後ろにいるトゥーリアまではどうにも出来ない。
「トゥーリア!?」
「放熱!」
長銃から撃ち出された術式が足元の溶岩に当たると、急速に熱が失われて固まっていった。だが術式でも瞬時には固形化しない。どうにか立てると言った出来合いの足元に足を置いて溶岩に飲み込まれるのを抑え込んでいた。足元が熱せられていく痛みに、歯を食いしばる声が漏れた。
「溶岩程度で声を上げるなど軟弱な!」
無茶を言う。いくら外装骨格であっても、国に合わせた専用の調整をしての運用――白の国だと対寒冷、青の国だと対水圧などが該当する――なので、どんな環境にも耐えられるわけじゃない。
俺は慣れない力で両足だけの足場を作るので手一杯だ。
「トゥーリアは足場を作ってどうにかしてくれ!」
「あいよ! だけどアンタどうすんだい!?」
「アレクエスの時と変わらん!」
これも液化した大地だと思えば、使える術式は知識にある。
「滑走!」
足元に羽がついたような軽さが生まれるのを確認した後に、足場から跳んで溶岩の地に足を下ろす。術式の力で足底が溶岩に直接付かず、そのまま滑るように俺の身体が動いた。理屈としては雪の上を滑っていくのと同じ原理だ。
足裏が焼けるような熱さは残っているので、それは熱を吸収して腕に宿している狼へと回す。
「ニグレオス! アタシにも同じ術式を寄越しな!」
粒子化した俺を邪魔しないようにするつもりか、首の後ろ辺りに腰を下ろしたニグレオスに何故か俺の顔色を窺われたが、俺としては一つ返事で頼むしかない。影だけの姿の竜がすぐさまトゥーリアへと渡って届けられ、銃声一発でベスティアークアも戦場に参戦した。
「気をつけろよ!」
「任せな!」
俺はそのまま接近していき、トゥーリアは身体を横滑りさせて側面から撃てるよう動いていく。
「戦い方はわかってる! 悪いが早めに決着を付けさせてもらうぞ!」
「小生意気な!」
拳を構えながら、ぎろりと睨み付けてくる目を正面から睨み返す。
熱を帯びていつもの黒から赤く変化している狼を先行で撃ち出しながら、間合いを詰めていった。
「我とて世界を守護する竜! この領域内でのみ許された力を久々に振るわせて貰おうか!」
俺に口を向けて炎の息を吐いてきたそれを難なく避けた。
今更何を、と思った矢先にそれは起きた。
「分かれた!?」
溶岩に触れた炎がその衝撃で溶岩を散らし、その小さな塊がなんと小さな竜になったのだ。
それも一つや二つではない。飛散した飛沫全てが大小様々な姿で変化した。
「小さき子らよ!」
アルタ様の呼びかけに応えて小竜が、俺に群がるというか突撃してきた。
一つ一つは大した事はないが、身体にぶつかると小さく爆発して身体の制動が乱れてしまう。
そして数が多いので視界周りに群がられると、その量で視界が塞がれてしまって鬱陶しい事この上なかった。
「じ、自律制御式の攻撃ユニット!?」
遠巻きにしていたトゥーリアからも、悲鳴じみた驚きの声とともに銃を乱射する音が聞こえてきた。
「そら! 我の子らに焼き尽くされよ!」
再び俺目掛けて炎の息が吹かれ、避ければ大量の小竜が撒き散らされる。そして小さな爆発とはいえ鎧に傷が付いていき、場所によっては体勢を崩されそうになり、動きを止めてしまえば的になる。
「面倒な!」
俺は拳を素早く小刻みに叩きつけて撃ち落としたり、狼を身体の周囲に走らせて食わせたりして身を守っていく。
トゥーリアも長銃から散弾のような弾を飛ばしたり、片手に持った短銃で防護術式を駆使してどうにか立ち回っていた。
「しかし埒があかないな!?」
「それはそうだろう! この領域では何を成すにも我の自由よ! この通り――」
溶岩の中でも不便なく動いているのは反則だと思うのだが、向こうは熱や炎を使いこなす赤の竜。自分の領域での戦いならこの程度こなして当然と言わんばかりの態度で鼻息荒く腕を溶岩に差し込んだ。
「――こんなものも作れるぞ!」
腕が引き上げると、拳に掴まれた溶岩が蛇のように持ち上がった……どころか、その手を離れて真っ直ぐに伸び上がっていく。
嫌な予感がひしひしと押し寄せるが、このまま防戦一方ではどうしようもない。
何をされるかを予想しつつ、左手の狼を身体の周りに走らせながら小竜に喰わせながら間合いを詰める。
「そら! 喰えるものなら喰ってみろ!」
頭となる先端部分に目が生まれたかと思うと、溶岩蛇が俺に突進してきた。
真正面から馬鹿正直に突っ込んでくるそれに拳を放つと、目元が光って避けられた。
「制限のない竜を甘く見るなよ!」
回り込んで迫ってくる溶岩蛇に側面から拳を叩き込んで軌道を逸らす。しかしその体型に際限はないのか身体が溶岩から伸び続けていて、俺を巻き付けようと執拗に絡んできていた。
「ははは! 偶には思うままに力を振るうのもいいな!」
さらに蛇を追加してトゥーリアの方にも飛ばされた。向こうでも対処は出来るだろうが、そろそろこちらも攻勢に出ないと一方的に蹂躙されるだけだ。
「楽しいのか、こういうのが!」
アルタ様の口元に浮かんでいる笑みを見つけて、さぞ楽しいのだろうとは思えた。
「楽しくなっている! 不快な事にな!」
俺の言葉で己がどうしているのか気づいたのか、顔を歪めて実に嫌な表情になった。
唾を吐き捨てるように炎を吐いて捨てると、幾分か勢いを増した小竜を俺にぶつけてきた。
「我々がそんな想いを抱くのも、彼奴のせいでな! 人を愛おしくなど思ってはいかんのだ!」
さらに二体の蛇が追加された。
まずい。一体でもまだどうにも出来ていないのに、これ以上は俺以上にトゥーリアの方が危険だ。
「お前らは人が嫌いか!?」
考える時間を稼ぐ為にも、自然と口が開いて言葉を絞り出す。
「そういう話ではない! 我らに感情など邪魔だ!」
俺の言葉が癇に障ったのか、俺を真正面に見据えてくれた。
しかしそれは火に油も注いだのか、目に怒りを宿して全身から覇気が増しているのが見えるほどだ。
「我らはただの概念! 人を想う事自体が過ちなのだ!」
地響きを立てながらゆっくりと二本の足で向かってくる。一歩進む度に溶岩が沸いて小竜が次々と生まれ、しかし突撃はしてこずに漂っているのが不気味だ。
「向かってくるといいラストック」
怒りはそのままで、しかしいっそ穏やかにも聞こえる声色で俺の名前を呼んだ。
「我を殺して見せろ」
口元から漏れる吐息すらも力となり、小竜よりさらに小さく瞬くきらきらと星のような何かとなって展開されていく。
「我は貴様らとは違い、死なぬもの」
背中から炎の翼が生まれて、さらに駒が増える。
まるで軍勢を従えて先陣を行く王のような姿に、頂点としての誇りが見えていた。
「貴様にのみ許されたその力で叶えてみせよ!」
もうトゥーリアの方へ目もくれない。
俺だけを視界に納め、その手を振り下ろす。
軍勢が雨あられと降り注ぎ、視界が真っ赤に染まった。




