そして戦禍は赤き地へ(1)
「くらえ! 貫き通す螺旋の槍!」
あと一息。この手を伸ばせば。
あるいは。倒れるように身体を倒せば、その足元には届くかもしれない。
俺の後ろから聞こえる銃砲を耳に捉えながら、俺は視線を前へと向けて倒れるように身体を崩した。
「行き先を求めて」
俺の身体が粒子化して分解され、足から消えゆくようになくなっていく。
しかし、身体の倒れゆく動きは止まらない。
向こうの螺旋の一撃が分解しつつある胴体に穴を空け、しかし攻撃は逸れて致命にはならない。
俺の術式は止まらず、ニージェルプスの手がコプラーヴィスの足を掴んだ。
「な!?」
俺の手首だけを残して、俺の身体が粒子化を終えて地面へと消える。
そして俺の作っていた影の群狼が手首に宿ってその足を大地へと――正確にはその足元の影へと縛り付けた。
「こ、のっ!」
両手で制御している嵐を足元に向けようにも、大きすぎてそんな小回りは効かないし、何よりあの威力では自身の足を粉砕してしまうだろう。
自分の足で蹴飛ばそうにも、両の足についた狼の顎は大地と結びついてびくともしない。
そして――上空からトゥーリアの渦巻け水蛇の濁流がコプラーヴィスを打ち砕こうと飛来した。
巨大な水流が動けないコプラーヴィスを貫こうとしたものの、手に持ったその貫き通す螺旋の槍で打ち砕こうと強引にぶつけ、互いの力が削られて磨耗し、相殺されるような形となって消滅した。
しかし術式の反動は凄まじく、足を封じられた身動きの出来ないコプラーヴィスは足が砕け、地面へと倒れ伏した。
周囲を水と風の粒子がふんだんに漂う中、すぐさま姿を地上へと戻して手首を強引に繋げると、息を吸うように周囲の力をこの身に蓄える。
「餓えたる狼の牙よ!」
右手首を越え腕全体にまで術式効果が広がり、頭だけでなく全身が出来た黒狼が生まれた。抵抗しようにも地面へ倒れた上に術式の反動で身動きの取れないコプラーヴィスの胴に向けて拳を突き出し、その大きな顎で胴を挟み込んで一息に噛み砕いた。
二つに割れた機体が粒子になり、元の姿へと戻ったヴィーレとニテヴィリが地面に横たわっていた。ニテヴィリは竜とは思えないような赤い血に塗れ、ヴィーレは腹部が消え失せて足と胸より上が二つに分かれている。
「……ニテ……ヴィ…リ」
まだ息があるのか、何も映していない瞳が月を見ながら、手を動かして嫁の姿を探していく。
「ヴィー……レ」
こちらも力なく重い足どりでその手元へと歩く。
「ありが、とう」
その手が竜の身体に触れると、口元をわずかに上げてそのまま息を引き取った。
ニテヴィリも満足げな表情を浮かべてその身を横たえる。
そして二人同時に粒子となってこの世から消え去って俺の腕に力が宿るのを感じると、俺は外装骨格を解いた。
「げほっ、ごぼおっ!?」
腹の奥底から込み上げる吐き気に逆らわず、次々と出していく。強い鉄の匂いが充満し、ますます気持ちが悪くなる。
「ラストー!」
聞き馴染んだ声が遠くから聞こえてきた。
「……トゥーリア……」
そう呟いたが、声など届いていないだろうし、そもそもきちんと喋れているのかすらわからない。
意識は朦朧とし始め、自分の吐瀉で匂いもわからず、しかし身体の感覚だけが妙に研ぎ澄まされて悪寒だけが増していく。
「大丈夫さね!?」
「……あとは…まか……せた」
次に向かう場所など、伝えるべき事はいくらもある。
だが、俺から伝えずとも次にすべきことはわかっているだろう。
「きもち、わるい」
それだけ口にした俺は、意識を手放した。




