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【後編】竜に見出された僕は竜退治に出かけ~そして俺は殺戮者になる【完結】  作者: 葛原一助
第2話  わたるもの

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目標、目的、目指すべきもの(5)

 星々が瞬く様を視界に収めながら、俺は小屋からゆっくりと歩いて離れていく。

 一歩ずつ歩を進めつつ、息を整え、身体を動かす事で調子を測る。


「……ふぅ」

 小さく息が漏れるくらいには疲れてはいるが、体調そのものは戦闘があった割には好調だ。


「開発は口実か?」

 姿を現しても問題ないとしたのか、影から出てきて俺の身体をよじ登ってくる。


「まさか。開発そのものはやるさ」

 気まぐれに手を伸ばして喉を撫でれば、目を細めて気持ちよさそうにしてくる。

 こうした姿だけなら、そこらにいる小動物と変わらないのに、存在そのものはこの世界の中心なのだからわからない。


「しかし、それならトゥーリアもいた方が――」

「――いや、必要な話は聞いた。あとは俺がどれだけ出来るか、だ」

 加速術式が使えなくなった今、俺に適した武器もないうえに遠距離戦は不得手である今、戦闘は格闘を主体とするしかない。

 今の能力(ニグレオス)に適した戦闘法を身に付ける必要性は急務だった。


「お前の視点を俺に見せる事は出来るか?」

「移動時に見る視点か。よかろう」

 視界の切り替えになる為、一度目を閉じた。

 眼球に熱のような力を感じ取ると、そっと目を開いた。


「……綺麗だな……」

 まるで先程まで見ていた星空のような世界がそこにあった。

 木々の形をした光や、岩や石の模った光。目を凝らせば葉の筋まで光が通っているのがわかる。ニグレオスはまるでルースのような真白い姿に見え、俺の姿も白狼のような白さだ。俺の胸元にある基礎模型(オルナメンタ)が、この世界でわかりやすく黒々としていた。


「これが起点としてわかりやすいな」

「そりゃあお主の血やら何やら付いておるからの」

 俺の力は(ルース)ではなく 黒 (ニグレオス)になったという事か。

 それなら俺は、もう妹とも姿形が変わってしまったのだろうか。

 少し離れたところに《オルナメンタ》を置いて、使いたい術を脳内に思い描く。


「我は昏き光、明るき闇。(あり)し形を(うつろ)にし、しかし我が意はここに在り。

 我は如何なる地へも行ける者――」

 そんな事はない。

 竜を全て殺して、関係を元通りにすればまた一緒に暮らせる。


「――行き先を求めて(クウェア・ディスティ)

 術句の発生とともに白かった俺の姿からうっすらと色が消え、身体の持つ重さがすっと消える。ともすれば俺がいないようにも思えそうだが、しかし、俺が『立っている』という感覚だけは足元から伝わってくる。


「潜るぞ」

 足元の感覚が失せて地面へと『落ちていく』。

 木の葉が風に揺られて地面へ落ちるより緩やかな速度で、しかし視界は上となる大地との距離を測るのに必死だった。

 落下を止めたのは、俺の背丈の倍ほど。大地の上は生命の輝きで華々しさがあるが、大地の下は暗く、目を凝らせばおそらく虫かはたまた地中に住む生物らしき存在が見て取れる。


「……はぁっ……はぁっ……」

 自然と下から目を逸らしてしまう。

 あの強烈な目が脳裏に焼き付いて離れていない。

 今もまだあの目に見られているかと思うと、背筋が寒くなる。


「安心しろ、と気軽には言えぬが、アレはこの場には現れぬよ」

 いつの間にか隣に現れたニグレオスが、俺の頬を叩いた。

 上を見上げれば、向こう側にもニグレオスの姿がある。


「気にするな。この程度の分体は出来て当然じゃ」

 混乱する俺を諌めるように、頭の熱が奪われていく。

 大きく息を吸って気を鎮め、頭を叩いて思考を整理して、改めて言葉を口にした。


「そうだ。そもそも術士として術を深く使いすぎると暴走するというのは、アレが原因なのか?」

「そうじゃ。人の間で勘違いされているが、そもそも術を使うという事は、我らではなく根底にある『原初の竜』の力を使っているんじゃ。

 そして、使い続けると向こうに気づかれてしまう。そうなると、もう術を使おうが使うまいが寝てる最中ですら視線を感じるようになる。

 あの視線に負けて歩み寄ってしまえば、そのまま意識が飲み込まれてしまう。その端末となっているのがあの角じゃよ」

 魔物と化すプロセスは把握したが、それがどうしてあの時に起きたのか、今にして思えばわかる。

 俺自身に角がなくとも、俺の餓えたる狼の牙よ(ルプスオーリス)は俺と常時繋がっている形式の術式だ。そのせいで接触した瞬間に直接繋がってしまったのだろう。拳から打ち出すようにしても、視覚には見えないようにした細い手綱で繋がっている以上、完全に切り離すかあるいは遮断出来るよう改良すべきか。


「魔物と戦うときは、術式を通じて角に直接触れるな。ただでさえお主は今、向こうに目を付けられやすい。お主があやつに会うのは全ての竜を殺した後じゃ」

 それは、最後にはあの原初の竜と対峙する事をはっきりと言葉にされてしまった。


「……いずれにしろ会うのか……」

 今ですら気が重い。そもそも対峙したとしても、戦って勝てるような相手どころか、勝負にすらならないと思えるのだが、どうしろというのか。


「すまんな。だがお前にはそこに行ってもらわなければならぬ」

「原初の竜を殺す為、か?」

 自分でも出来るなどと思ってない事を口にすると、ニグレオスは何故か眉間に皺を寄せて口を噤んだ。


「答えられないのか」

「すまぬ」

 ニグレオスのどうとでも取れてしまうその一言が、とてつもなく重い。

 それは、ニグレオスからしても、原初の竜に対してどうして欲しいのかを言葉に出来ないというのがわかってしまったからだ。


「殺せるなら殺してやってくれ。もしかしたら、それが一番良いのかもしれん」

「……………………」

「答えは今すぐ出せなくていい。だが、向かい合った時の事は考えておいてくれ」

 それは、俺の旅の最後には原初の竜と立ち会う事になっているということだ。

 彼ら竜をも超える存在に、俺がどうすべきなのか。


「わかった」

 返事を返しても、答えは俺にない。出せない。

 しかしそれでも、今は前に向かうしかなかった。

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