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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第5章 王女・呪い・水晶竜
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第91話 依頼

「喜びな! おあつらえ向きの依頼があったよ!」


 受付嬢は依頼書を片手に意気揚々と戻って来た。

 そのままカウンターに依頼書を叩きつける。


「A級の依頼だよ!

 依頼内容は……奪われた荷物の奪還!!

 どうだい!? ゾクゾクするだろう!?」

「しません。チェンジで」


 シェイルは叩きつけられた依頼書を軽く押し戻したが、受付嬢は構わずに依頼書をこちらに押し付けてきた。

 そのせいで依頼書はクシャッってなった。


「相手はこの近辺じゃあ、名の知れた盗賊団!

 その名も『黒トカゲ大盗賊団』!

 ……まあ、センスのある名前とは言えないが実力は本物で、規模も大きい。

 アンタにはぴったりの依頼だよ! どうだい?」

「えーっとぉ……」

「どうだい!?」

「はー……。わかった。引き受ける」


 シェイルは受付嬢の期待に満ちた目を見て、深々とため息をついた。

 どうやら依頼を受けるしかないらしい。

 あきらめるしかないようだ。


「さっすが!

 助かったよ。実はやってくれる骨のあるやつがいなくて困ってたんだ。

 ……おっと、ちょうどいい所に。

 マロンさん! こちらです!」


 セリフの後半はシェイルに向けたものではなかった。

 シェイルが振り向くと、そこには他の若い受付嬢に案内される形で老紳士が入ってくるところだった。

 ずいぶんと身なりがいい。

 聖都でも中々お目にかかれないような高級な礼服を着ている。

 ちょっと場違いなほどだ。

 それと護衛らしき人物を連れている。なんだか目つきの鋭いゴリラのようなおっさんだった。

 おそらく彼が依頼主なのだろう。


 ……いや、今この瞬間に他の受付嬢に連れられて登場するのはおかしくないか?

 俺が依頼を引き受ける前から……?

 いや、アームレスリングに興じているときにはもうあの受付嬢は老紳士を呼びに行っていたに違いない。

 まったく……悩んでいた時間を返して欲しい。



 ***



 シェイルとマロンという老紳士、それと護衛のゴリラはギルド二階の一番奥の部屋に連れていかれた。

 受付嬢も含めて四人で部屋に入り、ドアが閉められる。

 ロビーは酒場になっているから騒がしかったが、それと裏腹に非常に静かだった。

 料金の高い依頼の相談に使われる部屋なのだろう。シェイルでもなんとなく品の良さを感じられる部屋だった。


 シェイルとマロンがテーブルをはさんで向かい合わせに座り、受付嬢がその間を取るように座る。

 護衛の人はマロンの後ろに立っている。視線はシェイルの頭上の一点を凝視している。

 後ろの壁に絵でもかかっているのだろうか?


 シェイルが護衛ゴリラの視線に居心地の悪さを感じていると、マロンが口を開いた。


「君が私の依頼を引き受けてくれたのかな?」

「はい……」

「どうもありがとう。誰も引き受けてくれなくて困っていたんだ。

 ……おっと申し遅れてしまったな。

 私はマロン・トリステン。商人をしている。後ろにいるのは私の側近のリラだ」

「シェイル・ホールーアです」

「よろしく、シェイル。

 さて、早速だが本題に入ろうか。実はあまり時間が無いのだ」



 ***



 マロンが説明した事件の概要は次のようなものだった。


 西方の国で買い付けた帰り道、時間を短縮するため普段とは異なる道を通ったところ例の盗賊団に襲われたらしい。「やはり慣れた道を通るべきだったよ」とマロンは笑った。

 馬車十数台分の積み荷を奪われた挙句、御者や護衛もかなり殺されたらしい。

 マロンとリラは命からがら逃げかえって来たという。


「ああ、心配しないで欲しいんだが……。

 商会としては今回の損失は実際、微々たるものなんだ。

 商人である以上、こういったことはよくあることでね。

 なんと言うか……必要経費というやつなんだ。だから君が気に病む必要は無いよ。

 こんなご時世だしね」


 マロンはそう言って手を組んだ。

 組んだ手に一瞬視線を落とす。


「ただ……、今回は積み荷の中に極めて値打ちのある物が一つ混ざっていたんだよ。

 今回の依頼はそれの奪還だ。

 他の品は捨ておいてくれていい。どの道かさばる物だから他の品など持てないだろうしね」

「かさばる? どういった物なんですか?」

「箱だ」

「箱……?」

「そう。ちょうど君の背負っている剣くらいの長さがあるかな。

 いや、もう少し短いかな?」


 マロンは少し上を向いて後ろに立っているリラに同意を求めた。

 リラは目を伏せてうなずいた。

 リラは相変わらずシェイルと目を合わせようとしない。


「同じくらいかと」

「だね。まあ一目見ればわかる。

 大きくて立派な装飾が施された箱だから」


 箱か。

 大事なのは中身だと思うけれど、高価なものだから教えたくないのだろうか。

 優しい顔して信用しきっているわけではないのだ。

 これが商人らしさということなのだろう。

 それにしてもアドルモルタほどの大きさのある立派な箱か……。


棺桶かんおけのようなものですか?」

「ああ、そうだね。そう言われればそうかもしれない」

「すると俺の仕事は盗賊団の根城を見つけて、その箱を取り戻すと……。

 ん? ちょっと待ってください」


 箱の外見と言うか大きさについてはわかったけれど、中身については何も説明が無かった。

 盗まれたのなら当然中身を取り出しているだろう。

 何を取り返せばいいのかわからないじゃないか。


「中には何が入っているんですか?

 外側の箱より中身の方が大事でしょう?」

「その点は心配ない。

 その箱は魔法で開かないようになっている。

 箱自体も非常に頑丈で、ちょっとやそっとでは壊れない。

 つまり、中身だけ盗まれる心配はない」


 なるほど、金庫のようなものか。

 金庫に大事なものを入れていたら、金庫ごと盗まれてしまった。

 だから取り返してほしい。

 そんなところか。


「それと、もし万が一箱が開いてしまったとしてもすぐに閉じて欲しい。

 中身は……空気に触れると劣化する代物だからね」


 空気に触れると劣化する……。ひょっとして美術品か何かだろうか?


「もしかして揺れないように慎重に持って帰る必要がありますか?」

「まあ、できるかぎり揺らさないようにはして欲しいが……。

 振動対策はしてあるから、そこまで気を付ける必要は無いよ」

「持って走ったりは……」

「……問題ない」


 なるほど。急いで持って帰る必要があれば抱えて走ってもいいと。

 意図的に振り回したりしなければ問題にはならなさそうだ。


 聞きたいことはこんなところだろうか。


「わかりました。その箱、取り戻してみせましょう」

「おお! 頼もしい!」

「つきましては……」

「ん?」

「前金をいただけませんか? 少々金欠なもので……」



 ***



 シェイルは前金の入った袋を手に上機嫌でギルドを後にした。

 ランチに何を食べようか考えながらぶらぶらと街を練り歩く。


 さすがA級の依頼と言ったところだろうか、前金だけで三か月は旅費に困らないような金額になった。

 正直、前金だけもらってバックレるという考えも脳裏をよぎったが、さすがにやめた。

 三か月で水晶竜を見つけられなかったらまた金欠になる。

 その時はギルドで仕事を受けられなくなっているだろう。詰んでしまう。

 そもそもマロンさんの金を盗むのと変わらない。俺はまだ犯罪者にはなりたくない。

 ローアを生き返らせるための急ぐ旅とは言え、そこまで切羽詰まっているわけではない。


 美味しそうな匂いのするレストランを見つけ、中に入る。

 隣の席の客が食べている料理を指さして「同じものを」と言って注文した。


 今回の仕事はざっくり三つのフェーズに分かれている。

 つまり、

 1.発見。盗賊団のアジトを見つけ出す。

 2.潜入。アジトに入って「箱」を見つける。

 3.奪還。「箱」を持って帰る。

 の三段階だ。


 発見については多分問題ない。場合によっては時間はかかるかもしれないが、数日かければ見つけられるはずだ。

 潜入は……自信が無いな。姿を消す魔法とか知らないから。演技も上手くないし。最悪の場合、戦闘になるだろう。というか、戦闘は避けられないと思った方がいい。

 奪還は潜入の結果次第か。さっきの腕相撲の結果を考えると一対一なら負けないと考えていいだろう。逃げながら戦うヒットアンドアウェイ戦法を実践すれば問題ない……か?



 問題は潜入か。

 どうやらそこらの冒険者よりは腕っぷしは強いみたいだけど、経験豊富とは言えない。

 確かに迷宮を攻略したり、魔王やその眷属たちと戦ったりはしたけれど、それが今回の仕事に活かせるだろうか?

 盗賊団のアジトは迷宮ではないし、盗賊たちは異形の怪物じゃない。

 眷属たちよりは弱いかもしれないが、そもそもまともに戦えたのはローアが防御全般を引き受けてくれていたからだ。

 今は死角から攻撃されればガードできない。多少は対策しているが、完全じゃない。


 作戦を考える必要がある。

 俺はよく無策で突っこみがちだ。そのせいでローアとドットが死んでしまった。

 直接的に関係していないかもしれない。

 でも、もっと考えておけば結果は変わったかもしれない。

 俺はキュアリスじゃない。どんな状況にでも対応できるような強さも経験もない。

 だったら頭をひねるしかない。事前に。想定外を想定内にするしかない。


 ……とはいえ、まだ何もわからない状態では作戦の立てようも無い。

 ひとまずアジトを見つけてから考えよう。



 ***



 二時間後、盗賊団のアジトがわかった。ついでに見張りの配置も。

 マロンさんが通ったという街道の近くの森を歩き回り、探知魔法を使って割り出したのだ。


 探知魔法と言っても大したことはない。

 魔力を弾けさせて波を作る。その波の反響で周囲にある魔力に反応するものを探知する……。そんなところだ。

 原理的にはコウモリのエコーロケーションと同じだ。音波が魔力の波に変わっただけ。


 これは実際、ココの魔法の下位互換でしかない。

 ココの魔法はおそらくかなり直感的なものなのだろう。元々人の気配に敏感だったココが自分の感覚を拡張している……そんな感じなんじゃないだろうか。まあ、これはローアの見解だったのだが。


 今回、ソロで旅をするにあたって俺が覚えた魔法の一つがこれだ。

 深い森を抜けた方がずっと時間が短縮できる、ということがあって急遽覚えた魔法。

 死角だらけの森の中では大変重宝した。

 おかげで魔物にも人にも奇襲されることなくここまで旅をしている。


 ただし、この魔法にも弱点はある。それが下位互換である理由だ。

 精度が低いというのもあるが、それは練度でカバーできるだろう。

 だが、どうしようもない弱点もある。


 相手に探知していることがバレることだ。

 あと、自分のいる方向もバレる。


 でも、おそらくは致命的な問題ではない。

 この世界の魔法使いに索敵の概念は浸透していないのか、エコーを使用してもそれに気づかれることはない。町の中で何度か検証したから間違っていないと思う。

 ルイーズやローアですら習得していなかったようだし。

 ココがなぜ探知魔法を覚えていたのか疑問だが、ドミナトスの影響かもしれない。俺と同じ放浪者だから、適性を見てその方向に伸ばしたのかも。


 ……話がそれた。

 とにかくこれで敵のおおよその実態がつかめた。

 全部で42人。そのうちの9人は見張りだ。

 残りはアジトに固まっている。


 人数は思ったよりも多かったが、問題ない。

 これなら楽勝だ。

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