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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第4章 三分鼎立・輝煌三角・三人致死
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第77話 眷属

 白炎閃・薄衣うすぎぬを三回、白炎閃・断絶を一回。

 戦闘開始から十分でシェイル達は兵隊ウサギの数を三十まで減らした。


 シェイルが最初に薄衣を撃った時は四十体近くを倒すことができたが、それからはめっきり当たらなくなった。

 密度が減って当たりにくくなったのもあるだろうが、単純に強い奴が生き残ったのだろう。回避されることが多い。


 残ったウサギ達にも対応され始めている。

 二人一組や三人一組になってシェイルやフェリクスの攻撃を防ぎ、カウンターを狙ってくる。

 まだシェイル達の方が優勢だが、少しずつ攻撃はもらっている。

 いずれは勝てるが、予想以上に時間がかかりそうな気配だ。

 こんなことで眷属や演算機を倒せるのだろうか?


 シェイル達が焦り始めたころ、キュアリスが戻って来た。

 ドーンと地響きを立ててシェイル達の近くに着地し、目を見開いて驚くシェイル達をよそに腕をぐるぐると回してストレッチを始めた。


「うーん、あの眷属強いなあ……。そっちの調子はどう?」

「兵隊が結構強くて、あと三十くらいかな」

「ふーん、結構残ってるね。そっか、このレベルの集団戦は経験ないもんね。

 ちょっと交代してくれない? シェイル達はあのウサギの相手してよ。相性悪すぎ」


 シェイル達はキュアリスの指さした先を見た。

 その眷属ウサギは闘技場の壁に埋まっていた。

 トリビューラの言葉からしてリオンと言う名前の眷属だろう。

 どうやらキュアリスに殴られて壁に埋まっているようだ。


「なんだ、もう勝ってたのか。 冗談きついよ」

「違うよ?」

「え?」


 ドーンと地響きが鳴る。

 キュアリスが着地したときのような音だ。

 見ればリオンが自分が埋まっていた壁ごと周囲を吹き飛ばして立っていた。

 何事も無かったかのような顔でタキシードのホコリを払っている。


「……あいつと戦うの? マジ?」

「うん。私よりは弱いから」

「なるほど……」

「ま、がんばって。シェイルとの相性は悪くないから」

「よーし……。あ、ところで、あいつの戦い方とか……」


 しかし気づいたときにはキュアリスはいなかった。

 すでに兵隊ウサギたちの群れに突撃している。

 不幸なウサギの何体かは宙を舞っていた。


 シェイルが呆然とキュアリスを見ていると、ローアにぽんと肩を叩かれた。


「しょうがないわ、行きましょう」

「……うん」



 ***



 シェイル達が行くまで、眷属ウサギのリオンは黙って待っていた。

 他の眷属たちもじっと待っている。

 アンフはキュアリスと兵隊ウサギたち、ヴィアルはひたすら時計を作り続けている。じきに完成するだろう。


 シェイル達がリオンの正面に立つと、彼は口を開いた。

 低い、落ち着きのある声だった。


「今度はお前たちが私の相手か、正直、野蛮な勇者の相手をせずに済んでホッとしているよ」

「……お前たちはどうしてトリビューラの手下になったんだ?」

「やれやれ、それがアドルモルタの所持者の質問か?

 まるで戦いが好きではないようだな」

「痛いのは嫌いだ。最近は慣れてきたけど……、それでも嫌いなものは嫌いだよ」

「そうかね。私は痛みが好きだ」

「は? 正気か?」

「ああ、もちろん。辛い物が好きな人間がいるだろう? それと同じだ。

 トリビューラ様に死神と縁を切ってもらったからな。

 私にとって痛みはただのスパイスに過ぎない」

「だから他人にも辛い物を勧めるのか? 厄介な奴だな」

「ははは! 確かに厄介だな! 違いない!」


 リオンは両腕を広げた。いつの間にか、その手には数十本ものナイフが握られている。


「さて、世間話はこのくらいでいいだろう。覚悟はいいかね、人間諸君?」

「ちょっと待ってくれないか?」

「待たない。死神は決して待ったりしない」


 そう言うとリオンは持っていたナイフをシェイル達目掛けて投げつけた。

 しかし、ナイフは一本も届くことなく地面に落ちた。


「死神は今日はお休みかしら? 姿が見えないようだけど?」


 ローアの隣には演算機キューちゃんが浮いている。

 シェイル達に当たりそうなナイフは全てローアが小さな障壁を作って防ぎきっていた。


「ノックの音が聞こえたら扉を開けてはどうかな?」

「私、突然の来客って嫌いなのよね。礼儀知らずって感じ。あなたはどうかしら?」


 リオンが雨のようにナイフを浴びせかけ、ローアはそれを全て防いでいる。

 シェイルはその攻防をじっと観察していた。

 やがておもむろに口を開いた。


「なあ、リオン」

「気安く名前を呼ぶな、人間。なんだ?」

「トリビューラの手下なのに、ナイフなんか使っていいのか?」

「は?」

「ほら、三角にちなんだ魔法とか使わなくていいのか?」

「ああ……、なんだそんなことか……。

 やれやれ、つまらない考えにとらわれていては我らには到底届くまいよ」


 そう言うとリオンはナイフを一本手元に出した。

 おそらく、土魔法の応用で出しているのだろう。手品にしては本数が多すぎる。

 すでに軽く数百を超えるナイフを投げているはずだ。


「ほら」


 リオンは作り出したナイフをぽいとシェイルに投げた。

 投げられたナイフはシェイルの足元に落ちた。

 シェイルはそれを拾い上げた。

 ……よく見ると、ナイフの形は三角形だった。


「ナイフの形という固定概念にとらわれるとは……、もっと常識から逸脱すべきだな!」

「……」


 シェイルは黙ってまじまじとナイフを観察した。

 二等辺三角形の両刃のナイフで底辺の辺りに窪みがある。

 どうやらそこを親指と人差し指で挟んで投げるようだ。

 もっとも、それどころではない本数を一度に持っているわけだが。


「……で? ナイフが三角形で何かいいことがあるのか?」

「当然だ! 世界の真理に近づける!」


 リオンは自信満々にそう言い放つと再びナイフを投げ始めた。

 すかさずローアが防御を展開する。


「どうしたどうした! 防いでいるばかりでは私には勝てないぞ!」

「シェイル、あいつの言う通りよ。攻めなきゃダメ」

「ローア、防御は任せていい?」

「ええ、もちろん」

「よし、フェリクス、ココ、かく乱してくれ」

「いいだろう」

「わかった」

「行くぞ!」


 シェイルの合図で三人は一気にリオン目掛けて走り出した。

 文字通り雨のようにナイフが飛んでくる。

 しかし、三人の目の前にもローアの張る障壁が次々と展開され、ナイフの攻撃は全て防ぎきっていた。

 それを見てリオンは眉をひそめた。


「おいおい、どれだけ防御が手厚いんだ?」

「ローアの防御をなめないでもらおうか!」


 まずココがリオンに触れられる位置まで近づいた。

 リオンは死角から現れたココをとっさに斬りつけようとしたが、ココはするりとかわし、その代わりに『スターマイン』を落とした。

 リオンの周囲に煙が立ち込める。

 リオンが煙から逃げようとした先に、フェリクスが待ち構えていた。

 魔剣ニルゲイドで斬りつけ、反撃される前に煙の中に消える。

 リオンは忌々しげに顔を歪め、足を止めた。


 その瞬間、煙の外にいたシェイルはアドルモルタを振り上げた。


「白炎閃・薄衣うすぎぬ!」


 シェイルは断絶を撃つべきか迷ったが、薄衣を撃つことにした。

 断絶はキュアリスすら昏倒させる攻撃だ。

 命中すれば倒せるだろうとは思ったが、どうにも違和感がぬぐえない。

 あっけなさすぎる(・・・・・・・・)

 結局シェイルは薄衣を撃って様子を見ることにした。

 この攻撃は相手の出方を見るものだと割り切った。


 ローアを介してココと視覚を共有し、リオンの位置目掛けて斬撃を放つ。

 命中した手ごたえがあった。

 しかし、リオンが生きている気配がある。ココの目では見えている。

 やはり仕留められなかったらしい。


 煙が晴れると、リオンの周りには大量のナイフが三角の面をこちらに向けて浮かんでいた。

 幾重にも重ねたナイフで薄衣の斬撃を防いだようだ。

 円形に並んだナイフの中央に溶けてひしゃげたナイフの列があった。


 何のことは無い。ローアがやっていた防御とそれほど変わらない。

 断絶を使わなくて正解だった。相当に分厚い防御だ。

 断絶でも防がれていただろう。

 シェイル達もリオンもどちらも防御は固い。

 しかし、決定的に違うのは攻撃だ。


 リオンは圧倒的な手数に分がある。

 一方でシェイルには手数よりも一撃の重さに強みがある。

 そこに差があった。


「ローア、俺のやろうとしてることわかる?」

「ええ」

「サポートよろしく」

「ええ、任せなさい」


 ローアの返事を聞いて、シェイルは再びアドルモルタを構えた。

 今度は肩の上に担ぐように。


「走法・尺取虫」


 一気にリオンの目の前まで、ナイフの盾の前まで詰め寄り、すかさずアドルモルタを振るった。

 白い炎が刀身を覆い、元々大きな刀身をさらに巨大な剣のようにする。


「白炎閃・まとい!」


 炎を纏ったアドルモルタをナイフの盾に、その奥にいるリオン目掛けて叩きつける。

 ぎぎぎと嫌な音を立ててナイフが引き裂かれ、リオンの顔がのぞく。

 しかし、すぐさまナイフが増えてリオンの顔はその奥に隠れてしまう。

 それを許すまいとシェイルはアドルモルタをさらに振るう。


「まだまだ! 連撃!!」


 シェイルは魔法で自分の身体を操って斬撃を何度も繰り出した。

 刃が十何万回と繰り返してきた軌道を描き、ナイフの盾を見る見るうちにはがしていく。


 シェイルが次の斬撃を出すために剣を振り上げる。

 リオンはタイミングよく、その一瞬の隙を突いて逃げ出そうとした。

 しかし、その行く手を阻むように地面が盛り上がり、壁になった。


 ローアが土魔法で壁を作ったのだ。

 それはただの土魔法だ。障壁でも何でもない。

 強度はそれほどない。しかし、逃げようとした敵の足をほんの少し止めるには十分だった。


 リオンのすぐ後ろに迫ったシェイルはアドルモルタを高く掲げた。

 リオンが苦し紛れに投げたナイフはシェイルの喉元まで飛んだが、そこでローアの作った障壁に阻まれて地面に落ちた。


 リオンが顔を恐怖に歪める。


「それは反則だろ……!」

「じゃあな、死神によろしく。白炎閃・断絶!!」


 シェイルはアドルモルタにありったけの魔力の炎を灯し、リオンに振り下ろした。

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