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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第4章 三分鼎立・輝煌三角・三人致死
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第72話 説得

 二週間後。

 トリビューラとの戦いまで四日を残して、シェイル達はついにキュアリスにアドルモルタの一撃を入れ、昏倒させることに成功した。


「あたたたた……。ついにやられちゃったか。

 もしかしたらこのまま押し切れるかと思ったんだけど……」


 ローアの治癒魔法で回復するとキュアリスはすぐに目を覚ました。

 キュアリスはにやっと笑うと頭をかいた。


「まあ、ここまで手数と勢いが増すと時間の問題だったか。

 もう普通に二時間耐久もできるようになったし。

 この短期間でよくまあここまで伸びたもんだよ」

「キュアリスのおかげだよ。ずーっと付きっきりだったし。

 治癒魔法でムリヤリ起こされて続行したのは忘れないけど」

「あれ? 怒られてる? 感謝されるシーンだと思ったんだけど」

「両方だよ」

「あらま」


 キュアリスは立ち上がると膝をはたいてホコリを払った。


「さあて、無事課題はクリアしたわけだ。

 一応確認だけど、全員参加でいいんだよね?」

「ああ」

「オッケー。皆いい目だね。じゃあ、あと四日だし、当日まで休みにしようか」

「えっ、いいのか?」

「そんなんでいいのかって? いーのいーの。

 どんな準備したって、死ぬときゃ死ぬんだから。

 それより、心の準備をする方が大事。

 みんな、やり残したことが無いようにしときな。

 ……あーまあ、逆にやり残したことを作ってもいい。どっちでも好きな方にするといいさ」

「キュアリスはどうするの?」

「まだ決めてない。聖都中の美味しいものでも全部食べようかなあ。

 ……イマイチね。どーしようかしら?」

「軽いなあ……。皆は?」

「私は……。私も未定ね。これから考えるわ。いきなり言われたし」

「ココはミケルマ様を探す! もう近くにいるはずだ!」

「本当に来るのか、ココ?」

「来る。必ず来る」


 ココは断言した。

 まるで知っているかのような口ぶりにシェイル達は顔を見合わせた。


「貴様、ミケルマ達と連絡を取っているのか?」

「ミケルマ様だ、フェリクス。取っていない。聞くまでもない。ミケルマ様は来る」


 ココは地面をじっと見つめながら言った。


「エリスは近いうちに会えると言った。ココはまだ会ってない。

 きっとこの時に来るはずだ……」

「……」


 本当はミケルマがココに会いに来ていたことをシェイル達は知っている。

 その時に本人は眠っていたが……。

 おそらく、エリスが言っていたのはその時のことだろう。

 ……あまり期待しないよう、言った方がいいだろうか、とシェイルは迷った。

 いや、違うな。それは問題じゃない。


「ココ」

「ん? なんだ、シェイル」

「ドミナトスとミケルマが来るとは限らないと俺は思ってる」

「なんだと?」

「あ、怒らないで。も、もう少し聞いてくれ。

 でも……、もし来たなら、好きに動いてくれていい。

 こんなこと言わなくてもそうするかもしれないけど……」

「……」

「それだけ。来るといいな、ミケルマ……様」

「ああ。そうだな。言われるまでもない。

 ……シェイル」

「ん?」

「……あ、ありがとう」


 ココはぽつりとそう言うと、そっぽを向いて闘技場の外へ歩き出した。

 みんなあっけに取られてみていると、ココは少しずつ速度を上げていき、最後には全速力で闘技場の外へ出て行った。


 キュアリスがニヤニヤしながら言う。


「いやあ、良かったねえ、シェイル。妹がデレてくれて」

「誰が妹だよ」

「じゃあ、娘?」

「はぁ……。俺、どうしようかな。疲れたし、帰ろうかな」

「待て、シェイル。貴様はどうするつもりだ?」

「何が? ……ああ、休みのこと?

 うーん……帰って寝てから考えるよ」

「……そうか」

「俺は先に変えるよ。じゃ、また。ふわぁ……」


 シェイルはあくびを噛み殺して闘技場を出て行った。

 ローア達はシェイルを見送って顔を見合わせた。


「ふむ……。俺は姉上と茶でも飲むとしよう」

「あれ? お茶は嫌いじゃなかったですか?」

「不思議なもので、一滴も飲まずにいると飲みたくなってくるのだ」

「禁断症状じゃない? それ……」

「えっ……?」


 フェリクスは恐怖と絶望がないまぜになったような奇妙な表情で立ち尽くした。

 しかしすぐにハッと意識を取り戻した。


「そ、そんな訳がないだろう。そんな訳が……」

「ま、私にはどっちでもいいわ。じゃ、またね」

「はい、また―――」

「いや、少し待て、ローア」

「? なによ、フェリクス」

「話がある。大事な話だ」

「えっ……?」


 今度はローアが恐怖と絶望がないまぜになったような奇妙な表情で立ち尽くした。

 しかしすぐにハッと意識を取り戻した。


「ま、まさか……。私のこと、好きになったの……?」

「は?」

「はあ!? ダメですよ、フェリクスさん! ローアさんを好きになるなんて!」

「は?」

「いやあ、ごめんね。

 私は麗しくて、美しくて可憐だものね。

 ずっと一緒にいて好きにならない方がおかしいものね?

 でも、正直あなたはタイプじゃないの。ごめんなさい!」

「いや、俺は……」

「わかりましたね、フェリクスさん! きっぱり諦めてくださいね!」

「おい! 俺の話を聞け!」


 フェリクスが大声を出して地団駄を踏むと女子二人はきょとんとした顔をした。

 キュアリスはにやにやしながら行方を見守っている。


「なに急に大声を出してるのよ。怖いわよ?」

「なぜ俺がお前のことが好きだという前提で話を進めているんだ。

 しかも断り方がえげつないぞ、貴様。

 俺の心が無駄に傷ついたではないか」

「やや! やっぱりフェリクスさん、ローアさんのことが……」

「ノイア、貴様は黙っていろ」

「ひゃん」


 フェリクスがノイアに指を突き付けると彼女は悲鳴らしき声を出してひるんだ。

 フェリクスはその声に一瞬たじろいだが、ローアに向き直り話を続けた。


「ローア、貴様、このままでいいのか?」

「このままって何が?」

「シェイルのことだ」

「? だから何のことよ? まさか戦うのを止めろって言ってるの?」

「違う。だったら自分で言っている。

 俺が言っているのは……、あいつのことが好きなのではないのかということだ」

「は……、はあ!? はああああ!? ち、ちちち違うわよ!」

「そそそそそんな訳ないじゃないですか!?」

「ノイア、貴様は黙っていろ」


 フェリクスは赤面して固まっているローアに一歩詰め寄った。


「俺の勘違いなら、いい。

 俺の早とちりだっただけのことだ。詫びでも何でもしよう」

「ち、違うわ! わ、詫びよ! 詫びなさい!」

「だが……、もしも俺の言ったことが正しいなら、今のうちだ。

 さっさと告白するといい」

「こっ、告、白……!?

 そっ、それはその、あの……」


 ローアは懐からいきなりキューちゃんを取り出した。

 フェリクスは突然姿を現したキューちゃんに面食らった。


「ちょ、ちょっと待って。計算するから」

「この状況で何を計算する必要があるんだ!?」

「素数を……」

「現実逃避するな! 帰ってこい」

「わかったわよ……」

「シェイルが好きなのか?」

「うん……」

「このままでいたいと思っているのか?」

「ううん……」

「一か月後に生きている保証は無いんだ。わかっているな?」

「うん……」

「なら、がんばれ。

 その演算機を作るよりずっと簡単だろう?」

「……それも、そうね。はぁああああぁぁ~~~……」


 ローアは弱弱しくため息を吐くとその場にしゃがみこんだ。


「ホントに? ホントにやらなきゃダメ……?」

「知らん。お前が決めることだ」

「そうよね……。わかってるわ。わかってるんだけど~~~。ああああ~……」

「……それほど悩むということはあまり好きではないのか?」

「んなわけないでしょ! 好きよ!」

「ならばなぜそれほど悩む?」

「だってほら……、もしフラれたら、その……、空気が悪くなるじゃない?

 ほら、このパーティーの……」

「その時は俺がシェイルを殴るだけだ。俺は気にしない」

「私も! 私もシェイルさんを殴ります! 結果がどうであれ!」

「……ほら、ノイアもこう言って―――。

 ん? 結果がどうであれ……? ど、どういうことだ?」

「だって、成功ならシェイルさんがうらやましい。失敗なら許せないからです!」

「……ま、まあいい。理解はできんが……。

 ココは絶対に気にせんぞ。気づきもしないんじゃないか?」

「いやあ、気づいてると思いますよ?」

「そうなのか?」

「どっちでもいいわよ……。問題は私とシェイルよ……。

 フラれたらどんな顔して一緒に戦えばいいのよ!?」

「めんどくさい奴だな、貴様……」

「なんでよ! 人が一生懸命悩んでんでしょうが!?」

「悩む必要などない! やるか、やらんかだ! それだけだろう!

 跳びたいと思うなら跳べ! 後のことはその後考えればいいだろう!」

「でも……、でも……。う~~~~ん……」

「ダメだ。ノイア。俺では説得できん。どうすればいいと思う?」

「説得する必要あります?」


 ノイアの目を見たフェリクスはぎょっとした。

 闇堕ちしている。ローアが取られるのがそんなに嫌なのか。


「ええい、しっかりしろ! 闇に吞まれるな!

 成功したらローアが幸せになるだろうが! その時の表情を想像しろ!

 見たことない顔するはずだろうが!」

「ハッ!? 見たことないローアさんの顔、見たいです!」

「……誘導しておいてなんだが、貴様、相当だぞ」

「誉め言葉ですか?」

「くそっ! 姉上、俺に気力を分けてください……!」

「ローアさんを説得する方法、でしたっけ?

 ……やっぱり必要ないですよ」

「貴様、どういうつもりだ? まだ反対なのか?」

「いえいえ、違います。

 告白の場を私たちで作ってそこにローアさんを放り込めばいいんですよ」

「き、貴様、えげつないこと言うではないか……。

 一気に敵に回したくなくなったぞ……」

「そんなにえげつないですか?」

「ローアの意志をまるで無視しているところが特ににな。

 だがまあ、それでいこう。

 この調子だとトリビューラとの戦いで後悔し始めそうだ」

「それは無いでしょう」

「なぜだ?」

「私たちは負けませんから。後悔も何もありませんよ」

「それは……。

 ……。

 いや、お前の言うとおりだな」

「でしょう? 何をおかしなことを言っているんですか?」

「本当にな」


 フェリクスはふっと笑った。

 それを見てローアは目を見開いた。


「え……? マジでその方針で行くの? 私の意志は?」

「きっと成功する。大丈夫だ。……九分九厘、問題ない!」

「1パーセント抜けてるんだけど!?」

「しつこいですよー。はい、行きましょうねー」


 ノイアはローアをひょいと肩に担いだ。

 足はがっちりと捕まれていて、逃げられそうもない。


「わああああ! 放して! 放せー!」

「よし、行くぞ」

「はい。ローアさん、静かにしてくださいねー」

「やっぱりやだ! 今日はやめとく! 放してー!」


 ローアはジタバタしながらノイア達に宿へと運ばれて行った。


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