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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第4章 三分鼎立・輝煌三角・三人致死
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第71話 カルキュレイター

「さすがは勇者だ。恐ろしい」


 フェリクスは驚いて目を見張った。

 死を体現したようなキュアリスの拳が迫って来る。


「しかし、ローアの方が恐ろしいな。勇者を手玉に取るとは」

「……へえ?」


 フェリクスの発言に戦慄しつつも、キュアリスは拳を振り切った。

 ただのブラフという可能性もあるからだ。

 時間稼ぎすることそのものが目的のブラフもある。

 こういう場合、彼女は目の前の標的にトドメを刺すようにしていた。


 しかし、拳はフェリクスに当たることなく停止した。


「はあ!?」


 フェリクスの目の前に防護壁が展開されていた。

 彼にはこんな魔法は使えないはずだ。

 せいぜい身体強化魔法程度。防護壁を出すような魔力の余裕はないはずだ。


 ローアだ。

 例によって彼女が展開したのだ。

 感覚共有でタイミングを割り出して、仲間の目の前に壁を展開する。

 まあいい。それはいい。


 問題はその防護壁の強度だ。

 もちろん防護壁を砕くつもりで撃った拳ではない。

 それでも、今までのローアの防護壁なら易々と貫いていた威力だ。

 強度まで跳ね上がっている。

 レベルアップどころの話ではない。

 桁違いに強くなっている。


 いや、今はそれすら問題ではない。

 問題なのは……シェイル達の次の手だ。


 キュアリスは全力で後ろに跳んだ。

 また煙幕の中に入ってしまうが仕方ない。


「白炎閃・断絶!」


 極太の光の線が目の前を横切っていった。


 薄衣がジャブなら、これは右ストレートってところか。

 あれがシェイルの最大火力だろう。

 前はたしか蒼炎閃って名前だった。

 炎の色も白くなったし、肌で感じる脅威も増している……。


「シェイル! それ何発撃てるの!?」

「場合によるよ! でも前よりも多い!」

「薄衣なら?」

「数十発かな!」


 魔導力が上がったせいか、燃費もよくなっている。

 魔剣アドルモルタにも認められてきているのだろう。


 殻の破れる音がする。

 破竹の勢いっていうやつだろう。


 けれど、あまり調子に乗られても困る。

 彼らにはこの勢いのまま、当日まで成長してほしい。

 そのためには、やはりこの勝負には勝っておかなければならない。


 キュアリスは短く息を吐くと、踵を返し反対側から煙幕を抜けた。

 そのまま走り抜け、周囲を確認する。


 狙いはローアだ。ついでに、一緒にいるであろうノイアも倒す。

 ローアが反撃してくるかどうかだが……、気にする必要は無い。

 今、シェイルは暴走していない。

 なら、せいぜいグレートタートルを倒したときと同じ規模の魔法までだ。


 ローアが厄介なのはあくまでも演算機によるサポートで仲間たちを大幅に強化しているからだ。

 感覚や視覚を共有し、防御を遠隔で実行する。

 まだカードを隠し持っているかもしれないが、正面から看破してやろう。


 ガチャガチャという妙な足音が聞こえてキュアリスは上を見上げた。


 ……ローアを見つけた。

 というよりもノイアとその背中にいるローアを見つけた。

 なんと煙幕の上に足場を作って陣取っている。


 足場は空中に浮いていた。

 おそらくは防御魔法の派生だろう。

 浮遊する透明な障壁を足場として活用したのだ。


 キュアリスはジャンプして足場に飛び乗った。

 その足音にノイアはビクッと跳びあがったが、すぐに拳を固めて戦闘態勢に入った。


 しかし。


「君はやはり、もう少し覚悟が必要だね」


 拳を握った時にはもうすでにキュアリスは目と鼻の先に近づいていた。

 ノイアはどうにか、キュアリスの拳を止めようと手を前に出した。


「か、『怪力乱神』!」

「いいね、君もか!」


 ノイアは身体強化魔法を発動させ、キュアリスの殴打を受け止めた。

 さらに、一発殴り返す。


 キュアリスはこれを紙一重でかわした。

 互いに数歩距離を取ってにらみあった。


 と、キュアリスが手を上げた。


「……君の相手をしてもいいんだけど、その前に、ローアはどこにいるの?」

「下です」


 ノイアは真下を指さした。

 煙幕に隠れて、大きな魔力のうねりを感じた。

 アドルモルタとは違うが、それに匹敵する規模も魔力だ。


「!?」

「失礼します!」

「えっ?」


 キュアリスが魔力のうねりに気を取られた瞬間、ノイアが何かを投げた。

 先ほどココが投げたような飴玉に似ている。

 ただ、個数は一つで、サイズはこちらの方が大きかった。


 なんだ?

 何を投げた?

 また煙幕か?

 いや、違う。この状況で私の視界を奪う意味は無い。

 これは……、拘束か!


 キュアリスの予想通り、ノイアの投げた砲弾は弾けると中から茨の鎖が伸びて彼女を捕えようとした。

 キュアリスは素早く身をかわそうとした。


 その瞬間、真下の魔力のうねりが解放された。

 真っすぐにキュアリス目掛けて直進してくる。


 拘束が失敗すると踏んで、発射を前倒しにしたのか。


 キュアリスは不安定な体勢だったが、片足に無理矢理力をこめて跳躍し、真下から迫る魔力のうねりをかわすことに全力を傾けた。

 それは白い炎の矢だった。

 それは足元の防護障壁を砕き、貫くとそのまま空の彼方へと消えていった。

 キュアリスはなおも迫って来る鎖をかわし、断ち切り、拘束を逃れた。


 ノイアはすでにいない。

 足場の端から地面に下りたのだろう。


 キュアリスは矢が空けた穴から下へ落ちた。

 煙幕はすでにあらかた晴れている。

 ほぼ真下の同じ位置にローアとシェイルがいた。


 二人ともギクッとした表情をしている。

 なるほど、どうやらネタ切れのようだ。


 キュアリスはまずローアに詰め寄った。

 ただし、シェイルに攻撃されないように、ローアが邪魔になるようにわざわざ回り込んで近づいた。

 ローアは目を見開いて球形の防護障壁を展開した。


 キュアリスは小手調べに軽くパンチした。

 フェリクスに出したのと同じような力だ。

 防がれた。

 これは予想通りだった。


「君の障壁の本質の感覚は大体つかんだ。次は砕く!」


 キュアリスは右手を大きく振りかぶると、思い切り振り下ろした。


 障壁に大きな亀裂が入り、砕けた。

 しかし、その拳はローアに届かなかった。

 後ろから飛び出してきたシェイルがローアをかばったからだ。


「うおおおおお―――!

 ……ぎゃああああ!」


 こうして今日の勝負はシェイルの悲鳴で幕を閉じた。



 ***



 シェイルは宇宙にいた。

 宇宙服を着て、周りには星々が輝く黒い海の中を漂っている。

 視界の端で地球と太陽がくるくると輪を描いて踊っている。


 地面も無く、空も無い。

 何もない虚無の世界だが不思議と怖くなかった。


 ただ、びゅうびゅうと耳元で鳴り響く風の音だけが耳障りだった。

 ……。

 ……風の音? 宇宙なのに?





 シェイルは目を覚ました。

 どうやら宇宙旅行は夢だったらしい。


 しかし、目が覚めたのになんだか浮遊感がある。

 視界一杯に青空が広がり、白い雲がグルグルとものすごい速さで回っていた。

 夢で聞いた風の音も鳴っている。


 あの雲はどうしてあんなに回っているんだろうかと考えていると、唐突に自分の状況を理解した。


 足首を持ってグルグルと回されている。

 なんだっけ、この技……?

 ああ、ジャイアントスイングだ……。


「おはよ! シェイル!」


 キュアリスの元気な声とともに、シェイルは横方向に自由落下した。

 シェイルは慌てて防御魔法を展開して闘技場の壁に激突する運命を回避した。


「なにするんだよ!?」

「居眠りしちゃダメだよ、シェイル!」

「あんたが殴ったからだろうが!」

「そうだね! あはは!」

「あはは、じゃないよ。全く……」


 シェイルはキュアリス達の集まっている闘技場の真ん中あたりに歩いて行った。

 寝起きなので少しふらついた。


「まだまだ私には敵わないね―――って言うつもりだったんだけど、ちょっと予想以上だったわ。

 まさかここまで厄介になっているとは思わなかったわね」

「そうでしょうとも! がんばったからね!」

「うんまあ、シェイルもね。がんばってはいたんだけど……、本当によくがんばってたんだけど……。

 いかんせん、ローアの活躍が大きすぎて比較にならないんだよね……。

 全員の面倒見てたってことでしょ?」

「ええまあ、そうですね。

 私とキューちゃんでこのチームは成り立っていると、言っても過言ではないですね!」


 ローアはここぞとばかりに胸を張り、鼻を高くして言った。

 まあ、実際そうだ。

 この一週間で一番骨身を削って努力していたのはローアだ、とシェイルは思った。


 キューちゃんの作成に始まり、仲間全員に隷属魔法をかけ、共有魔法でつながり、連絡や感覚の共有、防御の肩代わりまで……。

 ローア以外には絶対にできないことをほとんど完璧にやってのけた。


 本当にローアのおかげなのだ。


「ホント、ローアのおかげだよ」

「そうだな。貴様のおかげだ」

「よくやった」

「ローアさん、すごいです!」

「あ、あら? アンタ達、そんなに褒めても何も出ないわよ……?」


 ローアは頭をぽりぽりとかきながらへらへらとだらしない笑みを浮かべた。

 よほど嬉しかったらしい。

 しかし、その緩み切った顔を見たキュアリスはパンパンと手を叩いて空気を変えた。


「ハイハイ、そこまで。

 浮かれるのもいいけどね。まだまだ道は長いってことを忘れないでね。

 あまり気を抜いていると目標にたどり着かないこともあるからね。

 ……ま、それはそれとして、油断さえしなければトリビューラ戦への参加はほぼ確実なのも事実ね。

 そろそろ魔王との戦いについて教えておこうかしら。

 備えておいて欲しいし」


 キュアリスは土魔法で簡易的な机と椅子を作るとシェイル達に座るようにうながした。

 各々が適当な位置に座り、ローアはキューちゃんを机の上に置いた。


「さて……、ちなみにシェイルはどういう戦闘になると思ってる?」

「え?

 えーと、トリビューラがなんか火の玉とか雷とか、なんか三角形の刃物?とかバンバン撃って来るんじゃないかなって思ってるけど……」

「ふーん……。ところで、シェイル。

 魔王は直接攻撃できないっていう話、覚えてる?」

「あっ!」


 シェイルは思わず大きな声を出して驚いた。

 そう言えばそんなことも言っていた気がする。


「他の皆は? 何か予想はある?」

「魔王というくらいだから、軍勢を引き連れてくるのではないのか?」

「ふんふん。他には?」


 しかし、フェリクスの意見が最後で特に新しい意見は出なかった。

 ココはすでに興味を失いかけている。

 走りたいのか椅子から少し体を浮かせたり、座り直したりしている。


「無いみたいね。

 二人の予想は残念ながら正解じゃないわね。

 不正解って言うほどでもないんだけど……。

 まず、もう一度言うけれどトリビューラは直接戦わない(・・・・・・)

 魔王はエリスの作ったルールで直接反撃することができないの。

 でもだからって無抵抗でやられ続けるわけでもないわ。

 そのために魔王の打つ手は大体決まっているわ。

 ローア、わかるかしら?」

「はい。演算機と眷属、ですよね」

「その通りよ」


 キュアリスはキューちゃんに手を伸ばして頭を鷲掴みにし、胸の前で抱えた。


 ローアはそれを見て目を見開いた。

 ……キュアリスにキューちゃんを壊されないか気が気ではないのだろう。

 キューちゃんはローアのお手製だ。

 作ってからは常に肌身離さず一緒にいる。もちろん寝る時もだ。


 キュアリスは岩石製の両手でキューちゃんを荒っぽくなで回しながら話を続けた。


「魔王は演算機を使って間接的に戦う。

 ローアは今回、演算機を魔法の補助として使ったんだろうけど、それを更に発展させたようなものだね。

 魔王たちの演算機は独立して動くんだ。連中は長寿だからヒマなんだろうね。

 何十年もかけて演算機を作ってる。もうほとんど人間みたいなものさ」

「それって勝てるの?

 自動で照準をつけられて魔法を無限に発射されるなら魔王が直接魔法を使うより強いんじゃないの?」


 シェイルは脳裏に元の世界の銃火器のことを思い浮かべながら言った。

 サブマシンガンとかガトリングみたいな攻撃をされたら、今のシェイル達ではひとたまりも無いからだ。

 なんとなくキュアリスは平気そうだけれど……。


「ああ、大丈夫だよ。火力の制限もあるから。

 そこまでとんでもないものは無いよ。

 つまり……、私に防御できないようなものは出てこない。

 君たちの防御が貫かれるような攻撃はまあ、ザラだけどね」

「それって大丈夫な要素、ある? 無くない?」

「大丈夫だって。大体の攻撃が私が防ぐから。

 君たちは漏れた攻撃をできるだけ防いで、治癒すれば大丈夫よ」


 キュアリスはキューちゃんを片手でお手玉のようにもてあそびながら言った。


「演算機は厄介だけど、魔王本人よりはずっとマシね。

 ま、戦ったことはないけど。エリスがルールを課すっていうことはそういうことでしょう。

 私たちの相手はあくまでも演算機。残念ながら一機じゃないと思うけれど、残機の制限があるから、キリはある。それを忘れないで。

 決して勝てない相手じゃない。

 ……あとは、眷属ね」


「眷属ってミケルマみたいな奴のこと?」

「ミケルマ様!だろ!シェイル!」

「うーん……。惜しいけど、ミケルマは眷属じゃないわ」

「おい、勇者! ミケルマ様!!」

「わかったわかった。ミケルマサマは眷属じゃない。

 彼はドミナトスに心酔しているけど、だからこそ眷属になっていないのでしょう」

「どういう意味? そもそも眷属ってなんなんだよ?」

「眷属は……そうね」


 キュアリスはあごに手を当てて少しの間考え込んだ。

 もう片方の手でキューちゃんを高い高いしながら。

 キューちゃんは十秒間隔でキュアリスの手元に返ってきていた。

 ローアは雲の上まで飛ぶ愛しのキューちゃんを目を血走らせて見つめている。


「魔王は不死身だっていうことは覚えてるかしら。

 眷属は魔王からその不死性を分けてもらった者たちよ。

 自分でその不死性を理解し、到達したわけじゃないから魔王ではないけれど、魔王と同じで寿命を持たない存在。

 それが眷属」

「ミケルマは―――。あ、いや、ミケルマ様は眷属じゃないってことは、不死身じゃないのか?」


 シェイルはココににらまれたので慌てて言い直した。


「そうだよ。眷属にはその不死身の分、エリスのルールが課せられる。

 人間や魔王を攻撃するとペナルティがかかるんだ。

 眷属自身とその主人である魔王にね。

 だからミケルマサマはドミナトスの眷属になっていないんだろう。

 ドミナトスか、ミケルマサマか、どちらが望んでそうなったのかはわからないけどね」


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